岸和郎展「京都に還る_home away from home」レポート

Neoplus Sixten Inc.
1. 2月 2016
Photo by Neoplus Sixten Inc.

今回のテーマは「京都に還る」。
 

‘80年代(30代)、現代建築家を標榜していた頃、京都にとらわれず、どう京都と距離を取るかを考えていた。しかし周囲には「自分の建築は何てちっぽけなんだ」と打ちのめされるような名建築が立ち並ぶ京都。そんな中、自分では現代的と思って設計した〈日本橋の家/1992〉が、ヨーロッパの人々に「日本的だね」と褒められ愕然としたという。

それを期に「もがいてもしょうがない、京都に還ろう」(=京都を受け止め関わる)と決心した。

「この展覧会はそんな『京都』から時に逃げたり、時に利用したりしながら建築に関わり続けてきた私の現在であり、作品を展示するだけではなく、私という建築家のアクティビティの有り様全てをここに持って来ようとした。」

Photo by Neoplus Sixten Inc.

3階展示室には大きな3つの島と、壁面に小さな模型とドローイングなど、過去の作品が並ぶ。
 

建築家であり、教育者であり続けた岸和郎。左から教鞭を執ってきた京都芸術短期大学(現京都造形芸術大学)、京都工芸繊維大学、京都大学という3つの大学内に設計した建築が並び、それぞれの大学の岸さんと縁の深い研究室が制作協力を買って出た。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

左の壁面には、京都工芸繊維大で助教も務める市川靖史によ撮り下ろされた岸建築の4K映像が流れる。
 

ちなみに会場には作品名も作品の解説も掲示されていないので、受付でリーフレットをいただいて、それを見ながら回ることになる。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

〈京都芸術短期大学高原校舎〉 京都府/1982年

Photo by Neoplus Sixten Inc.

デビュー作としてはかなり大きな建築を手掛けた。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

京都造形芸術大学 城戸崎和佐研究室、大阪工業大学 朽木研究室が担当。
 

校舎でのアクティビティの様子を伝える写真や、ディテールの図面などで構成されている。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

〈京都工芸繊維大学 KIT HOUSE〉 京都府/2010年
 

食堂や生協が入る建物。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

学内のレーザーカッターを駆使して精密な模型に仕上がっている。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

京都工芸繊維大学 木下研究室が担当。
 

「いつも見慣れた学食でしたが、図面を見ると中には非常に工夫された構造があることが分かり、このような架構模型を作りました。」と木下昌大さん。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

〈京都大学 北部グラウンド運動部部室棟〉 京都府/2014年
 

景観条例により勾配屋根であることや、屋根・壁の形式、素材、色まで限定されている。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

さらに、地下には埋蔵文化財もあるため既存建築と同じ位置、同じ深さの基礎にしつつ、床面積を広げるための工夫が見られる。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

京都大学岸研究室が担当。
 

スチレンボードで精密に再現されたH型鋼。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

〈日本橋の家〉 大阪府/1992
 

前述した「京都に還る」決心をするきっかけになった住宅。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

手描きのオリジナルの階段詳細図。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

〈下鴨の家〉 京都府/1994
 

近代住宅の標準化を目指し、平面計画と架構を重視し設計した。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

美しい手描きのアクソメ図。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

和紙に描かれた〈和歌山の家(松が丘の家)〉  和歌山県/2002年

 Photo by Neoplus Sixten Inc.

中庭は京都の碁盤を模した展示。
 

アクリルキューブに焼き込まれた作品は、概ね京都での所在地に配置されている。

中央には京都御所を苔で表し、右奥の石を比叡山に見立て、その向こうに配置されたキューブは滋賀県の作品を表す、言わば枯山水になっている趣向だ。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

旅先の土産物でよくアクリルキューブを買い求めるそうだ。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

プラズマ切断機で精細に作られたアルミ製の模型は〈京都大学 北部グラウンド運動部部室棟〉 。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

3階展示室は最近の仕事の数々。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

空間を仕切るように吊り下がる〈テキスタイルウォール〉 は岸さんの教え子で現在はストックホルムに拠点を置くテキスタイル作家 森山茜による。
 

岸さんが敬愛する倉俣史朗へのオマージュとして森山さんに依頼した。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

壁面にはかつて旅した様々な風景を切り取ったポジフィルムが並ぶ。"建築家としてこのようなものを経験しながら歩んだ” という足跡だ。
 

昨年自身が監修した展覧会「丹下健三が見た丹下健三」を彷彿させる。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

〈京都市美術館新館計画案〉 2015
 

2015年のプロポーザルコンペでのプレゼンテーション模型。地下部分に増床するプロジェクト。

(※採用案は青木淳・西澤徹夫設計共同体)

Photo by Neoplus Sixten Inc.

竹中工務店によって開発された〈DESKRAMA〉。〈京都市美術館新館計画案〉の図面上でタブレットを動かすと、建物内部の立体的なイメージを見ることができる装置。
 

ゴーグルを装着してバーチャル映像を見ることができるものがあるが “酔う” 方が多いため開発された。実際会場で自由に体験でき、地上、地下、平面、断面がどんな角度からでも見ることができる。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

奥には、東京のとあるところに設計した茶室を1/1で再現。壁にはその書院の様子が一面に貼られ、岸さんデザインの立礼卓(りゅうれいじょく)が鎮座する。
(※正面の発光部分は西日が当たっているため)

Photo by Neoplus Sixten Inc.

この日は、裏千家 茶道芳心会を主宰する木村宗慎(きむら・そうしん)によってお茶が振る舞われた。
 

木村さんは2月14日開催のギャラリートークのゲストだ。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

2000年以降の住宅を中心としたプロジェクトが図面と共に並ぶ。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

展覧会に協力した卒業生達の作品がタブレットで閲覧できる。
 

岸さんから協力者達への感謝は絶えなかった。

Photo by Neoplus Sixten Inc.

岸和郎さん

「展覧会は私自身の展覧会であると同時に、私に関わった人達の協働の成果でもあります。」

2016年3月をもって京都大学を退官する氏の講演会が1月29日に開催されますが、これが京都大学最後の講義という位置付けだそうです。

【岸 和郎:京都に還る_home away from home】
会期:2016年1月28日 ~ 3月20日
会場:TOTOギャラリー・間
詳細:www.toto.co.jp/gallerma/ex160128/index.htm

このカテゴリ内の他の記事