小堀哲夫による「NICCAイノベーションセンター」
Neoplus Sixten Inc.
11. 12月 2017
Photo by Neoplus Sixten Inc.
小堀哲夫(小堀哲夫建築設計事務所)による福井市の「NICCAイノベーションセンター=NIC」を見学してきました。福井駅から北西へ2.5kmほどの場所。NICCA(日華化学株式会社)は繊維加工用界面活性剤の製造・販売を中心とした、業務用洗剤、化粧品、バイオ事業などの化学製品メーカーで、1941年からこの地に本社を置く企業。
敷地面積12,400m2、建築面積2,600m2、延床面積7,500m2。S造4階建て。
敷地の中には幾つかの棟があり、表通りに面した研究施設を建て替え・増築した。
photo: google-maps
以前の研究施設。敷地一杯に高い塀を立て、工場然とした雰囲気で、周囲に広がる住宅や店舗との距離感を感じる。
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塀を取り払い、盛り土をして多くの緑を街へ還元。ランドスケープはスタジオテラが担当。
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1階は地域にも開くパブリックペースのため、賑わいが外へも感じられるようにした。2階以上は研究施設としての機密性も求められる、相反する条件をルーバーや深い庇でクリアした。透けるようなファサードで圧迫感も軽減している。
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エントランス。
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NICはこれまでの研究施設としての概念を覆し、知恵と技術をグローバルに交換できる「バザール」をテーマとする。特に1階はパブリックスペースとして社員はもちろん、クリエイター、学生、地域住民などが集い、賑わいの中で刺激的なことが起きることが期待される。
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エントランスを入って直ぐは自社製品の展示など。什器は地元福井の杉で製作したものだが、地下水が多い土地柄から鉄分を含みやすく、赤茶の筋が入ることがあるという。通常廃棄される材をうまく意匠として利用し、高級なチーク材のように見せた。
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もう少し奥へ進み「コラボレーションスクエア」。バザールの中で多様な人が意見交換をできるエリア。ガラスで囲われた "個室" もある。
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カフェスタンドも。右奥には半パブリックな実験室や分析室がある。
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さらに奥は「ガーデンスクエア」と呼ぶ多目的スペースが広がり、左の開口から庭のテラスに連続する。普段は社員食堂として機能する。
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ホールは2層吹き抜け空間。講演会や学会、シンポジウムなども対応可能で、今後様々な企画が計画される。この日は小堀さんなどのプレゼンテーションが行われた。
このキューブ空間のサイズは7m×8m×9m。この「広場」に見たてたコモンズが建物内に3つ立体的に配され、人や情報が活発に交錯するよう計画されている。
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2階へ。ここからは研究施設としてのプライベートエリアで、セキュリティゲートが見える。
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階段を上がって左に回り込むとフリーアドレスのオフィススペースで、2つ目のキューブ空間(コモンズ)になる。右手に巨大なホワイトボードが見えるが、研究者がいつでも自分のアイデアなどをプレゼンしながら議論できるようになっている。
左手にガラス張りの実験室がファサードに沿ってレイアウトされており、様々な実験設備が並び撮影はNGだ。
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オフィスの奥から。1階から階段が延び、中央で3階、4階へと上がり渡り廊下で社長室へと通じる。来客者は社員の仕事ぶりを眺めながらコモンズを巡るように上階へ上がり、社長室へ。逆に社員はどのようなお客さんがいつ訪れたのか把握でき、会社がどのような仕事をしているか知ることが出来る。
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1階ホールは一部4層の吹き抜けで自然光が入るようになっている。
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設備用配管はバルコニーに出した。ファサードのルーバーはアルミ押し出しの長尺材を使うことで、支持フレームを省き意匠的にすっきり見える。またルーバーは交差させることで懐が深くなり、斜めからは見えにくく、東からの角度の低い太陽光を和らげることができる。
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3階へ。そろそろ天井のルーバーに触れなければならない。この建物は長手(このカットの左右)が南北で、ファサード面が東になる。光・熱・空気が大きな環境要素であるが、先ず大きくはトップライトから光を柔らかく均質にするためのルーバーだ。
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RC製ルーバーの断面は菱形になっており、バウンドした光が間接光のように注がれる。直射日光は夏至の前後2ヶ月だけ細く差し込むようにしたが、それは年間の晴天率が低い福井で、日光によって季節の移ろいも感じてもらうため。さらに福井の豊富な地下水をこのルーバー内に循環させ太陽熱を取り除き、有効な光のみを獲得できる。
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さらに地下水は構造用の巨大壁柱や、周囲の壁や床にも通され、優しい輻射冷房となる。もちろん冬は蓄熱式の温水によって輻射暖房とし、送風による冷暖房の不快さをなくす。
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「自然環境を取り込むことで生産性が上がることは、今までの研究施設を手掛けた中で実証されている。」と小堀さん。
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3階の3つ目のキューブ(コモンズ)もフリーアドレスオフィスで、トップライトに近いため光量が多くなる。
デスクはオリジナルでオカムラが製作し、自由にレイアウトを変化させることができる。デスクの間に立っているものや、左に見えるものなど、照明計画・デザインは岡安泉が担当した。左の照明は夜天井を照らし柔らかな間接照明空間を作ることができる。
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概ね社員は空間の内側であるコモンズを行き来するが、研究や考え事に集中できるよう周囲にも通路や小さな籠もりスペースを設けている。
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階段の周囲にはカフェスペースや、、
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ライブラリースペースなど、寛げる空間も至るところに散りばめてある。
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4階へ。渡り廊下を渡って左に社長室。右に会議室。
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キューブを中心に様々な吹き抜けやバルコニー状の空間が、立つ場所により無限に変化する。どこからでも撮影できるため立ち位置を絞り込むのは苦労した。
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4階にはほかに幾つかの大きさの会議室や、オフィススペースが並ぶ。
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一番上まで来ると、トップライトはキールトラスで構成されていることが確認出来る。このキールにより4階が吊られている。
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そして空間に柔らかさを与えているテキスタイルは安東陽子さんが担当。「淡い光が易しく拡散するように求められました。重ねた2枚の布がよく見ると複雑なモアレを生みだし、ドットで軽やかな意匠にしました。」
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スタジオテラの石井秀幸さんと、野田亜木子さん。「中の賑わいを外に見せられる場所と食堂は見えないようにと、抑揚のある盛り土と、植栽の粗密によって変化を持たせました。高木も植えたので時間が経てばかなり雰囲気が変わるはずです。また敷地の傾斜を利用して小川を作り、地下水を流して夏期には涼しい風を屋内に届けます。落葉の清掃が必要になりますが、社員さん達は積極的に街の美化に取り組んでいると伺ったので、庭も手入れをしていただけるだろうと確信してこのようにデザインしました。」
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小堀哲夫さん。「新しい働き方の模索、働き方の意識を変えるために3年もの間、様々なワークショップを重ねてきました。ここで働く全てのひとの視線や動きが、立体的に連続するキューブ空間を交錯します。がやがやと賑かで人や情報が行き交うプレゼンテーションや議論の場であり、研究の場でもある、働き方がそのままミュージアムとなるオープンイノベーションセンターです。環境としては光・熱・空気をアラップと徹底的にシミュレーションし、究極のエコロジーを目指しました。」
設計・管理:小堀哲夫建築設計事務所
構造:ARUP
設備:ARUP
ランドスケープ:スタジオテラ
テキスタイル:安東陽子デザイン
照明デザイン:岡安泉照明設計事務所
施工:清水建設