⽇刊⽊材新聞社

Yasushi Ikeda + Akiko Kokubun / IKDS
10. 2月 2021
All photos by Neoplus Sixten Inc.

池田靖史+國分昭子/IKDSによる江東区の「⽇刊⽊材新聞社」新社屋 。歴史的に大火災に見舞われてきた地域にありながら、⽊材業界と共に歩む企業のひとつとして、都市の⽊造化・⽊質化における課題への挑戦から、⽊質感を現した独特な建物をBIMやAR、CNCなどコンピューテーショナルデザインを駆使して実現させた。
[Japan Forest Products Journal New Head Office Building by IKDS]

夕刻、様々な木の表情が浮かび上がるファサード。
江⼾の⽊材の歴史を受け継ぐ街ここ江東区冬⽊町は、江戸時代にこの地に創業した材木商冬木屋に由来するという。近くには富岡⼋幡宮と深川不動があり、江⼾の⽂化を⾊濃く残しているエリア。しかしこの一帯は関東大震災、東京大空襲の際に最も被害を受けており、戦後は⽕災の延焼防⽌に取り組んできた典型的な地域でもあるため、ほとんどの建物は不燃化されて、残念ながら街並みからは⽊材の姿は消えてしまった。
そのような状況を憂い、⽇刊⽊材新聞社はかねてよりあった社屋の隣地を買い足し、約2倍になった敷地に現代の新しい技術を駆使して、木造の新社屋を建設した。
木造といっても内部にのみ現れるだけ、或いは耐火被覆されては意味がない。準延焼防止建築物としながら、木造であることを街に示すことが本プロジェクトの使命であった。
建物の隣地側、延焼ラインにかかる部分は防⽕構造で、それ以外の部分にできるだけ大きな開口を設け木材を現しにしている。
慶応義塾大学の教授でもある池田靖史さんは、コンピューテーショナルデザインや、デジタルファブリケーションなどの先鋭建築技術の研究者だ。このエントランス扉は木の葉をモチーフにしたスリットで、CNC加工機を用いて、扉の内側から外側にかけて、スリットの角度とその進入角度も徐々に変化させながら切削されている。
エントランスホール。隣接する中学校の通学路にも面することや、地域連携の考えから1階のエントランホールはライブラリーにした。曲⾯をなす本棚には⽊材の伝統⽂化や新技術、森林環境保全などの書籍などが並べられて、様々な世代がいつでも気軽に⽊材の知識に触れられる様に開放した。かつて当たり前であった木質の建物は、今や逆に目立つ存在となり、人々を呼び寄せ、⽊質建材や地域の歴史を学べる機会を準備することは、⽊材関連の情報を扱うジャーナリズムの一使命でもあるだろうか。
(Photo: Masaoi Nishikawa)
2階へ。階段は塊感のあるCLTの踏面と、桁には厚肉のLVLが木材の力強さを見せている。
エントランス扉、ホールの書棚、壁、カウンター、柱梁、この階段室と木材カタログのような建物だ。
新聞社の最重要機能である編集部の執務空間は、できるだけ⼀体的で広い空間を確保することが求められた。主構造体であるカラマツ集成材の⽊造柱梁フレームに、大スパン(12.5m×7m)のCLT構造床を架け無柱空間を実現した。
(Photo: Masaoi Nishikawa)
2階を無柱空間にするために天井(3階床)は屋根から鉄⾻で吊るという⽅策を取り、吊り鉄⾻はLVLで作られた⽅⽴ての中に遮蔽した。
ヒノキのCLT厚板を内からも外からも美しく見せるために、天井懐を取らず、照明も空調も分離して一枚の大きな “板” が象徴的に浮かんでいるようにした。
ファサードに現れていた組木は西日を遮り、仕事環境を向上させることはもちろん、冷暖房の負荷を軽減するためのものだ。この課題に対応しながらかつ建物のデザインを特徴づけるものとした。
角度が刻々変化する西日を遮るためには、水平や垂直一方向のルーバーでは難しいため、升状でしかも60度の角度を付けることで、視覚的透過率と⽇射遮蔽を両⽴するためにとても都合が良いことに気づいたそうだ。そして三⾓升格⼦は365⽇全ての⽇のシミュレーションをした上で、格⼦の繰り返しピッチと奥⾏き⽅向の⾓度などが調整されている。
組み上がった三角格子は、構造でもある方立に固定され、風に対するファサードの強度をより高める役割もある。
さらに三角格子はガラスとの間に隙間を設けてあるため、隙間を上昇する熱を上部で回収し建物に循環させることもできる。
柱梁は現しで使うために、35mmの燃え代を含むサイズとなっている。接合には内部に仕込んだ鉄筋棒をエポキシ樹脂で固めジョイントするサミット⼯法を採ったため、表⾯に⾦物やボルトが見えてこない。
造り付けられている引き出し付きの棚は、発行した新聞のバックナンバーを3ヶ月分ストックしておくためのもの。
3階会議室。外や2階からも見えた "4隻の船底"。
前述した3階床を吊るめに梁せいの高い梁が並ぶ。梁せいはかなり高いが幅方向の剛性を高めるため補剛材として方杖が必要になった。それならばと⽊の葉型の曲⾯に並べることで⼤胆なインテリア要素にもして、通りからも見える建物の特徴の⼀部とした。
この梁は横から見ると分かるが、下面は緩やかなカーブを描いており、⽅⽴ての辺りで最大の梁せいとなる。そこへ平面的には木の葉型の方杖を並べると、全ての方杖のサイズや小口の角度が異なってくる。
どのように施工するか次に説明するが、その前に、右上に見える欄間のようなものはエアコンの吹き出しカバーだ。CNCによるデジタル加工機の性能を引き出す意図で、加工性のよいCLTとの組み合わせで複雑な形状にチャレンジした。空調吹き出し開⼝率の計算までをしながら、同じ形の孔が2つとない。
この建物の設計は基本的にBIMで⾏われ、ほとんど全ての打ち合わせも三次元モデルを中⼼に⾏った。それ以上に実際の加⼯組み⽴て⼿法への直接的な応⽤が試みられている点にその先進性がある。
慶應の池⽥研究室で開発されてきたヘッドマウントディスプレイ上に、現実の視覚に重ねて部材位置のガイダンス表⽰をするAR(拡張現実)技術を前提にディテールが考えられた。(Photo: IKDS)
4組合計で約180本の⽅杖とそれを梁に固定するための固定ブロックには列番号があり、それを含めて空間に浮かぶ様を⾒ることができる。ある程度の誤差は⽣じるが⼨法を測って⽐較し補うことができる。「この世界的にも例のない⽅法を、とにかく職⼈さんたちが⾯⽩がって使ってくれたことが嬉しかった!」と池田さん。(Photo: IKDS)
西日が当たり始めた時間であるが、直射は和らぎ、優しい自然光が入ってくる。
こちらも池田さんがデザインしたオリジナルのパーティション。CNC加工で複雑な三次曲面が可能だ。
池田靖史さん。「改めて⽊材は加⼯性の良さでも⼈間に近い材料であり、デジタル技術の使い道も⼈間と建築の関係を近づけることにあると感じます。今回のようにデジタルに⽣成加⼯されながらも⾃然を想起させるまろやかな曲線が⽊材と森林環境をつなぐ象徴的なモチーフとなることで、伝統と最新技術が交差する⽊⼯技術の未来を表現できたと思います。」
【⽇刊⽊材新聞社 新社屋】
設計・監理:IKDS
構造:KAP
設備:ZO設計室
総合プロデュース:小泉治
施工:長谷萬カスタムホームズ事業本部

構造:木造・一部鉄骨造
階数:地上3階
敷地面積:193.91m2
建築面積:135.48m2
延床面積:375.82m2

日刊木材新聞社:https://jfpj.jp

Posted by Neoplus Sixten Inc.
 

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