魚谷繁礼展—都市を編む

Shigenori Uoya
27. 5月 2024
All photos by Neoplus Sixten Inc.
◼️展覧会コンセプト

都市を編む
私たちは、歴史都市である京都を拠点に、国内各地で町家や長屋、路地などに関連するプロジェクトに取り組んできました。そしてその取り組みを通して、これらを取り壊すのではなく、そのままの姿で保存するのでもなく、生きた都市遺構としていかに後世へと継承しうるのかを考えてきました。

京都に限らず都市や地域は、多様な事象が積み重なりつつ現在の姿となってあらわれています。そうした歴史性や地域性といったコンテクストを、ただ建築設計のコンセプト構築に利用するのではなく、そのまま空間として享受しうるような建築をつくれないか。そしてその建築は、歴史性や地域性をただ消費するのではなく、それら既存のコンテクストに新たに織り込まれながら、より豊かな都市空間や都市居住の実現へと繋がっていくものでありえないか。

リサーチでは、設計のために行うのではなく、都市のコンテクストと現況をいかに捉え、地域の未来の可能性をいかに提示しうるかに注力します。そのうえでリサーチにより得られた知見を思想的背景にしながら、過去から未来に続く時間軸における現在において、どのような建築をつくりうるかを考えます。

この展覧会では、そのようなリサーチを背景にして設計してきた建築を紹介します。また今回は、京都・五條地域で取り壊されることとなったお茶屋建築の軸組を、東京・乃木坂に移設します。建築はその場所にあり続けることに意味があると考えますが、日々町家などの建築が取り壊されている現在、都市の遺構の一部である軸組を敢えて別所にて再構築することの有意性について、この展示を通して共に考えたいと思います。
3階ギャラリー1。左手には魚谷さんのリサーチ、中央に設計手法を読み解く模型とモックアップ、右奥にプロジェクトの図面が並ぶ。
展示はまず京都市の広域市街図から見ていただきたい。
大きな四角の枠はかつての平安京で、平安京中心から右側の縦に延びるグレーの部分が応仁乱以降の上京と下京の旧市街、そして平安京から飛び出すように描かれた縦長の枠が秀吉が築いた御土居を示しており、それら京都の街が形成されるきっかけとなった重要な歴史遺産の上で仕事をしているということを常に意識している。

地図中に小さく塗られているマスが魚谷さんたちが手掛けた、或いは進行中のプロジェクトで、その数は150件に及ぶ。
下京の旧市街の中心に〈郭巨山会所〉があり、その周囲を 「 」(カギカッコ)で囲んだ部分を、別の地図で拡大している。
次に魚谷さんが、大学の学生や事務所のスタッフと共に20年研究してきた京都の〈旧市街の都市構造〉を見る。リサーチのごく一部であるが、下京区の四条烏丸交差点を中心にした地域を抜き出し、この地域の都市構造の現状を捉えている。
拡大してみると、この地域の2002年における建物の用途がプロットされている。
例えば水色が住宅、紺色が集合住宅、オレンジが金融機関、薄オレンジが雑居ビル、薄緑が店舗、焦げ茶が寺院といった具合だ。
さらにそれぞれの用途を抜き出されたプロット図を見る。
2002年の様子で、左が集合住宅、右が宿泊施設の分布。
次に2023年の様子。左が集合住宅、右が宿泊施設の分布。
こちらは街区ごとにみる”筆”の変容。土地がどのように分筆されたり、合筆されてきたか。
そのほか街区構造がどのように変容してきたかなど、旧市街構造の時間やコンテクストを客観的に見ることができる。

これらのリサーチは建築設計のために行われているものではないが、魚谷さんが京都で仕事をする上で思想的な背景となっている。
「もしこれらがなければ、京都らしいということで単に庇を付けて、格子を付けてと、そんな建築になってしまうと思う。」と魚谷さん
プロットされた地域の拡大地図(広域地図の「 」で囲われた部分)で中央が四条烏丸交差点だ。
この中のさらに「 」で囲われた部分、左上が〈コンテナ町家〉、その右下が〈郭巨山会所〉と〈新釜座町の町家〉。
数えるとこの地域だけで26のプロジェクトを手掛けているが、よく見ると平面まで描かれており、都市・外部・建築がシームレスに連続して考えられていることを表している。
そして模型を見る。島の内側には地図で見た街区全体の模型で、その中に手掛けたプロジェクトがある。
これは先に見た、街区の構造や変容などのコンテクストや時間を鑑みながら仕事を進めるためだ。敷地だけでなく、敷地と連続する路地も大切な要素となる。

「京都ではグリッドパターンという形式が1200年間継承されてきたが、街区の構造や住居のカタは時代の求めに応じて変容してきた。また、敷地という概念は市街地建築法(1938年)や建築基準法(1950年)に定められた最近の概念であるため、それ以前から市街地であり続けた京都では敷地境界線が曖昧な箇所が少なくない。このような京都において建築を設計する際に、都市と街区と建築とその内部空間までをシームレスに検討することができる。」
〈コンテナ町家〉2019
街区構造の現況を体感しながら立体化された路地を歩き、街区中央でウラの雑多な世界へと拓かれる。街区の建築の間のスケールを鉄骨フレームが調整し、コンテナと長屋が重なる。
中層のビルに囲まれた街区の内側には昔ながらの “京都” がある。コンテナ町家がそのウラ世界への路地を継承する。
ただ古いものを遺すのではなく、歴史的な積み重ねがあって今があるということが歴史都市京都の姿だ。
(Photo: Yohei Sasakura)
〈郭巨山会所〉2022、〈新釜座町の町家〉2016の街区模型
郭巨山 (かっきょやま) 会所は模型のどこにあるのかよく見えない。四条通に面しているがビルの狭間に建ち、実際よく分からないそうだ。展示はその曖昧さをそのまま表現した。
郭巨山会所は2023年日本建築学会作品賞 受賞作。ビルの建ち並ぶ四条通と歴史的街並みが残る膏薬辻子 (こうやくのずし) との角に建つ祇園祭の会所の増築。築100年の母屋と蔵を繋げるように大屋根を架けた。
スペース不足で建替えが検討されたが、景観を守るために増築しながら保活することにした。しかし増築に対して建築基準法の構造や防火の遡及が掛かってしまうので、京都市の条例を活用してこの建築を保存対象建築とすることで、建築基準法適用除外させ京都市と協働での基準法同等以上の地震や火災に対する安全性を担保し、増築による伝統継承の計画を実現させた。
(Photo: Yohei Sasakura)
郭巨山会所の断面図
既存部の補強や増築区部に鉄骨が使われているのが分かる。
〈郭巨山会所の構造モデル〉
増築も補強も木で組むとなると断面が大きな材になってしまうので鉄骨を選んだ。それは街に合った素材よりも、街に合った寸法を優先したためだ。そして構造家には、既存の木柱梁を鉄でサポートするのではなく、鉄を使えば良いところは鉄、木を使えば良いところは木と、鉄と木をフラットに扱って欲しいと依頼したそうだ。そうすれば歴史を積み重ねた既存の木が、これからも役目を果たしながらあり続けていけると考えた。
モックアップの通り、鉄骨は着色せずとも黒皮のまま使えば古材となじみ全く違和感はない。
〈新釜座町の町家〉2016
表から奥を臨むと、暗い屋内から明るい庭、暗い屋内の向こうに明るい庭、更に向こうに建物と、明暗が繰り返される。街区中央では微地形を調停してきた石垣が愉しめる。
〈京都型住宅モデル〉2007
現代の京都に相応しい住宅モデルの提案。
〈京都型住宅モデル 構造モデル〉
120×450mm断面の集成材を並べ壁構造とし、梁や床の自由度が高く、建具によって柔らかく仕切られ増築や改築が容易となる。壁は構造でありながらそのまま仕上げであり、断熱、調湿、準耐火の役割を担う。
通りから裏庭が透けるように見え隠れする。
中庭には迫力の木架構〈元お茶や屋敷の軸組移設〉
京都の花街の一つであった五条エリアの茶屋建築は、近年急速に建替えが進行している。
そのうち一軒の約100年前に建てられた建物の、解体された半分ほどの軸組を別なプロジェクトに活用すべく、一時的に本展に合わせて移設した。
軸組は痛んでいる箇所も多く補強されているが、床の間や床柱、座敷の竿縁天井の痕跡が見られる。
会期中壁の一部に竹小舞(たけこまい=土壁の下地)を編んでいくそうだ。
4階のブリッジを跨ぐように架けることで、100年前の軸組の2階部分も体感できる仕掛けだ。
解体現場にあった祠も一緒に持ってきて、ブリッジの突き当たりに鎮座させた。
4階ギャラリー2に入ったところで、軸組移設プロジェクトの様子が展示されている。
右面は今後の計画で、再び京都に戻され、〈大山崎の実験住宅〉に10年間用いられる。
さらにその後、五条のかつてあった場所のすぐ近くに移設し定着させる計画。
ギャラリー2は進行中のプロジェクトと、壁には手掛けてきたプロジェクトの写真が隙間無くぎっしりと展示される。
訪れるとかなり暗い空間に思うが、あえてほの暗い中で探してもらうような雰囲気に演出した。
〈高辻猪熊町プロジェクト〉2024予定
既存町家の内部にコンクリートのヴォリュームを挿入。コンクリート型枠の他に既存の土壁や柱をそのまま型枠に利用しており、何十年か後に土壁が崩れると、土壁のテクスチャーが転写されたコンクリートが現れる。
右がその構造のモックアップ
〈瓦役町プロジェクト〉2025年予定
廃寺を宿泊施設に再生。本堂や敷地の木々はそのまま遺し、庫裏の上部に客室ヴォリュームを増築する。元庫裏の内部で、既存木柱に挟まれたコンクリート壁に出逢う。
〈五条 I町プロジェクトⅠ期〉2023
曰く付きの事務所跡地に3年限定のアトリエを新築。地面にコンテナを置き、地面に鉄骨柱を挿し、現状の街区のヴォリュームに合わせて屋根が架かる。
〈五条 I町プロジェクトⅡ期〉
3年後にはアトリエを撤去し、敷地に地下を掘って一部建築し緑地にする。
〈五条 I町プロジェクトⅢ期〉
暫くして、木々が育ったらまた何かを新築し、穴の緑地の反対側にも、例の元茶屋や町家を移築させようかと魚谷さんが勝手に計画中。

「歴史的地域や歴史的建築で下手なことをすると叩かれてしまうのではないかと怯んでしまう、或いはこの地域にはこれがあるから自分も同じようにしてみましたなど、歴史を設計の言い訳にしていることが多くある。それらはもっともらしいことを言っているように聞こえるが、実は何も言っていないのと同じことだと思います。」と魚谷さん

しかしそうではなく、もっと楽しめないか、ただ楽しいだけでは消費されていくだけなので、そこに新たな価値と歴史を重ねることで未来に繋げていけないかと、そのように考えているそうだ。
写真は京都だけに留まらず日本各地のものがあるが、並べてみるとそれぞれの都市に地域性を感じると言う。写真の合間には色々な人と議論通じながら考えてきたことが小さなキャプションとして添えられている。
例えば、「後世のお金を前借りしてビルを建て替えるのではなく、これまで引き継いできたものを後世に残す。そして新たに遺すものをみんなでつくる。」
「空き家があれば、建築家が建築主を決め、プログラムを提案してもいい。そしてともに考え、ともにつくる。」
色々刺さる言葉が記してあるのでスマホのライトをかざして探してみていただきたい。
魚谷繁礼さん
「実は元々町家の保存には興味がなかった。古いものを遺すだけでは新しいものは何も生まれないので新しい町家みたいなものを作っていきたいと思っていた。だけど、京都で生活していると(神戸出身)毎日、本当に毎日町家が壊されていくのを目の当たりにし、こればまずいと思って町家の改修に取り組むことになった。だけど僕が頑張ったところで状況は殆ど変わらない、どんどん減っていっている。『大事だよ』と情緒的なことを訴えていても仕方がないので、『なぜ遺す必要があるのか』ということを説明し皆が考えていかなければならない。この展覧会がそのきっかけになればと思っています。」
【魚谷繁礼展 都市を編む】
Shigenori Uoya: Re-Weaving Urban Fabrics

会期:2024年5月23日~2024年8月4日
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜・祝日
入場:無料
会場:TOTOギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂)
主催:TOTOギャラリー・間
詳細:jp.toto.com/gallerma/ex240523/index.htm

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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