T cube

7. 12月 2019
All photos: Neoplus Sixten Inc.

猿田仁視(キューボデザイン建築計画設計事務所)による鎌倉の住宅「T cube」。鎌倉の海を一望できる敷地に建ち、周辺の自然の恵みを十二分に享受できるよう計画。[T cube house by Hitoshi Saruta / CUBO design]

傾斜地に建つ建物は地下1階に車2台分のガレージを持ち、そこを基壇としながら1階と2階の大きなボリュームが乗る。鎌倉特有の景観条例の厳しい風致地区で、緑化義務や既存樹木の保全など規制が多岐に渡る。外観はそのままでは巨大なRCの躯体が立ちはだかるので、木製のルーバーでボリュームが柔らかくなるように周囲に配慮した。
地下1階のボリュームは大谷石の擁壁と馴染むように全面をコンクリートの小叩き仕上げとし、1・2階のボリュームは杉板型枠を用いた。リン酸処理亜鉛メッキの薄いスチール製庇と、木製の格子引き戸が、外観が重くなりすぎないように効いている。
植えられたマキノキはもう少し葉が茂ってから角形に切り揃えるそうだ。
ヒバ材の格子戸を開けてアプローチ。たたきや階段は洗い出し仕上げ、踏み石やトクサと和テイストが散りばめられている。
リン酸処理亜鉛メッキスチールのポーチ、スレート、両開きの鉄扉が別世界へゲートのように構える。
内開きの鉄扉を押し開けるとこの光景が現れる。
施主はフランス人のアーティストで、奥さまは日本人。ご主人は日本・日本建築が「大好き」で、まず日本の庭のあり方に心惹かれたという。建物と庭の関係、庭の造りが持つ意味、借景など西洋やイスラム圏にはない様式に感銘を受け、都心のマンションから自分の家を建てるに当たって、日本のありとあらゆる寺社を訪ね、妥協のない空間を実現するために猿田さんに依頼した。初め自身で描いた設計図まで持ち込んだそうだが、猿田さんは熱意ある話をじっくり聞きながらも建築家としての考えを提案し、玄関ホールから右を洋、左を和とする二つの世界が共存する空間に計画した。
玄関ホールから右に進むとコリドー(奥からの見返し)で、洋の空間なので土足のままとなる。
コリドーには江戸末期の写真。大変な数をコレクションしている。
ホールから左の和の空間へ。この先は下足を脱ぐため沓脱石も見える。置いてあるチェアーは17世紀フランスのアンティークと、燭台は19世紀日本のアンティーク。インテリアも和洋の隔たりなくコーディネート。
既存の梅の木を残した枯山水。近景の森の木々や遠景の山並みを借景としている。
振り返るとゲストルームがある。壁には唐紙が貼られ、障子を利用して床の間とした。右手の襖を開けるとシャワー室とトイレになる。和室にエアコンが現れないように、右上の欄間はエアコンの通風口となるようにした。
次は10帖の和室。ご主人が日本の建築に興味を持つきっかけとなった数寄屋造りの本を見てから実現したいと願っていた空間。自ら選んだ床柱と竹を使った落掛、杉板の棹縁天井、砂壁と純和風の設え。
コーナーの全面開口。ここからは遠景に一切人工物が見えない。
開口は障子と雨戸の間に利便性も考慮しガラス引戸も引き出せる。
茶道も学ぶことで庭の見方も変わっと言う施主は、既存の木や築山を残しながら、こちらも自身で選んだ石と配置を計画した枯山水に仕上げた。庭先には竹の濡れ縁。数寄屋をベースとした和洋両翼の建物と一体となった庭が美しい。
庭の反対側から
広間の奥にはゲスト用の浴室があり、4人ほどが同時に入浴可能な広さ。ヒバ、ヒノキ、御影石で仕上げ、掛け流し温泉の雰囲気を味わってもらう為に大型のボイラーも備えている。
玄関ホールの右手からは洋の間が続く。まずはリビングと見紛うほどのご主人の書斎だ。こだわりの庭をパノラマで眺めることができるコーナー開口。
モダン空間に和である障子によって柔らかな光へと空間の質を変える。桟も組子も繊細なものとした。
書斎の次は主寝室。さらにバスルームと続く。朝目覚めれば相模湾と富士山が正面に。
傍らには奥さまのワークデスク。ウェグナーのザ・チェアーはヨハネス・ハンセン製のヴィンテージだ。
外観でも見られたルーバーはこの家のアイキャッチとして要所要所で深みのある表情をつくり出している。
引き込みの引戸を開けると大判のセラミックタイルで統一されたバスルームが現れる。リゾートホテルのような仕上げだ。
ここからも富士山。左の鏡はハーフミラーで、裏にテレビが仕込まれている。夜には浴槽に浸かりながら観賞できる。
2階ホールは建具に使われるチークの香りに包まれる。左はキッチン、正面はリビング、右はトイレ。
引戸を開放。
リビング。豊かな緑と富士山。森には桜もあるようだ。土地を探していた施主はここを初めて訪れた際に即決したという。
フォーマルダイニングにもザ・チェアーのビンテージ。
和箪笥が違和感なくマッチした空間。奥の黒い部分は暖炉。
リビング
全面開口とバルコニー
日本の建築や美術に関する書籍や写真集が並ぶ。
フォーマルダイニング
キッチン。ブレクファストテーブルを間にシンクや食洗機が両側に対である。最大10人のゲストを想定しているための設備だ。
キッチンを抜けるとルーフバルコニー。アウターダイニングや、さらにアウターリビングもあり内や外を気ままに使い分けられる居場所が散りばめられている。筆者の背後から離れのように計画されたセカンドゲストルームがある。中央の階段からは屋上へ。庇の上にはソーラーパネルが並ぶ。
セカンドゲストルーム(離れ)はダブルベッドの洋室。ワークデスク、クローゼット、シャワー・トイレ・洗面があり、もはやホテルだ。
将来奥さまの親を呼び寄せられることも考慮し、バリアフリーで設計されている。
屋上は何とプールになっていた。温水プールではないが、流水発生装置が備えてあるのでしっかりと泳ぐことができる。2階からの階段、プールサイド、プールとも防水はFREライニング工法。
プールサイドにもリビング。ご夫婦で、また気の置けない友人たちとここで飲むワインは最高だろう。ここまで上がると伊豆半島も望める。
猿田仁視さん。「どのような空間にしたいか、何をどこに置いてどうされたいか、非常にご要望が明確で妥協のない高い意識をお持ちのクライアントです。ミーティングを重ね、ディテールや仕上げの調査のために一緒に様々な所に出掛けるなどしていくうちに、チームのベクトルが定まっていきました。そして建築家として建築や空間を整理し、クライアントの夢を叶えられるよう細かな納まりや施工方法なども工務店やメーカーと検討し、設計を進めました。非常に難易度の高い困難を極めたプロジェクトではありましたが、チャレンジングで学びの多い楽しいプロジェクトでした。」

施主は、「我々が無理難題を要求しながらも、猿田さんは『無理』や『出来ない』ということを一切仰らず、『考えてみます、探してみます』と言って必ず解決策を考えてくださいました。」と話す。
【T cube】
設計監理:キューボデザイン建築計画設計事務所
構造設計:正木構造研究所
施工:大同工業
構造・規模:RC造(一部木造+SRC造)、2階建て

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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