SAKURA
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- 東京
- Ano
- 2006
東京の住宅地に計画された夫婦二人のための住居兼オフィス。 都内でも有数の地価の高いエリアに敷地はあるが、他の都心部の住宅地の例に漏れず住宅が雑然と密集した状況から、その価格ほどに住環境として良質であるとは言い切れない。 ここに更にもう一つ住宅を押し込むことより、良好な住環境を生み出すことの方が、まず先決であるように感じられた。 思い出したのは、ミースとフィリップ・ジョンソンによる二つの著名な「ガラスの家」である。室内を裸で歩きたくもなるような、その自由さと開放感は、ガラスそのものの透明性にもよるが、なにより建築を取り巻く気持ちのよい周辺環境=「森」によるところが大きい。 「森」がすでに気持ちのよい住環境を形成しているのである。だから、建築はごく薄く透明な皮膜で内外の空気を切り分けるだけでいい。 居住に適した環境さえあれば、「住宅」そのものさえ必要がなくなっていくことを明快に示している。 求めたのは、この「森」の代わりとなる存在である。 具体的には、居住に適した環境を生み出すため「の」の字型にくるりと巻かれた2枚の大きな帯状の面を敷地内に設置することで、良質な住環境を発生させる事を試みたのである。 それぞれ高さ7.5mと5mの木漏れ日のように光を透過する、厚さ3mmのステンレス製のレース状の、自立する壁面である。 伊勢型紙の伝統文様である桜のパターンに沿ってパンチングされている。 このように抽象化された桜の森を分け入ると、「気持ち良く住まえる「予感」のする環境」が現れる。 ここには「住宅」という「構え」は、もはや見当たらない。ここは純粋な「住環境」であって、記号化されたいわゆる「住宅」ではないし、ましてや「住宅地」でもない。 都市の届かない 明るい深部 が、東京に生みだされたのである。