中川エリカ展 JOY in Architecture

Erika Nakagawa
22. janeiro 2021
All photos by Neoplus Sixten Inc.

TOTOギャラリー・間で開催の「中川エリカ展 JOY in Architecture」レポート。コロナウィルス対策として2020年の3月より休館していた “ギャラ間” がようやく再開。設計の現場で実践しているスタディの痕跡、会場を敷地に見立てた建築そのもののような展示、チリで行ったリサーチから得られた発見など。会場目一杯に展開されている。
Erika Nakagawa: JOY in Architecture at TOTO GALLERY·MA, Tokyo

展覧会コンセプト

"JOY in Architecture"
私は建築を考えるとき、どんなカタチが良いか、と同時に、そのカタチがどんな使い方を生み出すのか、身体にどんな感覚をもたらすのか、ということを大事にしています。また、どの街にもそこにしかない雰囲気や体験が必ず存在し、代えがたい価値をもっていると思うからこそ、建築が周辺環境とどのように補い合うことができるのか、ということも大事にしています。建築よりも小さなものと大きなもの、言葉にさえできないものを建築と同時に検討していくためには、身体性をもった巨大で具体的で詳細な模型が必要なのです。

常日頃、スケールの異なる複数の模型をつくっているのですが、精一杯の、がむしゃらで向こう見ずなエネルギーでつくり続けていると、建築におけるよろこびをいくらでも見出すことができます。模型から建築を生み出すことが楽しくてしょうがないというよろこびもあれば、人びとの暮らしや営みには生きた発見がまだこんなにもあるのかというよろこびもあります。

この展覧会では、現時点で思いつく限りのスタディやリサーチの実践が一堂に会しています。
展示のためではなく、建築そのもののように展覧会をつくれないだろうかと考えた結果、必要不可欠だと感じて、地球の裏側、南米チリまで事務所全員でリサーチにも行きました。そこで得た発見や体験をいかに設計と連続させていくのか、という挑戦も会場にあります。
建築を通じてまだ見ぬよろこびをたくさん分かち合うことができるなら、これに勝るしあわせはありません。
中川さんの代名詞とも言える、大きく緻密な模型の数々が並ぶ。
3階、GALLERY 1では〈設計の現場〉"2014年以降、設計の現場で活用されてきた模型・ドローイング群を展示"
これらの模型は竣工済み、或いは計画中、計画案など状況は様々であるが実際に設計の現場で使われたもの。一部を除いて本展のために制作されたものはないという。ここで中川事務所での設計プロセスを垣間見ることができる。
本展のために(とはいえ展示を主目的としたわけではない)制作された模型は、本展計画用の模型だ。通路幅を取りながらどの模型がどのくらい配置できるかを検討したもの。
1/20の模型の中に作られた1/20模型なので、1/400で再現されている。
「そこまでする必要があるのだろうか!?」とツッコミたくなるがこれが中川エリカのスタイルであるし、スタッフもこれを作るのを楽しみながら(?)やっているに違いない。
〈桃山ハウス〉2016
中川さんがオンデザイン(代表:西田司)から独立し、初めて手掛けた新築作品にして代表作。2017年の住宅建築賞で金賞を受賞した。
詳しくは以前取材したこちらの記事に。
中川さんの設計はまず敷地とその周辺のコンテクストの読み込みから始まる。街と建築が相互に補い合い連続する場を生み出すべく、周辺の建物の形はもちろん、植わる樹種、電線の配置、擁壁の石垣まで細かにリサーチする。
〈高柳邸〉軽井沢で計画中の住宅。
上記桃山ハウスのようにコンテクストの読み込み後、中川さんが大まかなコンセプトを考える。それをもってスタッフたちと話し合うが、イメージスケッチなどは示さず、話し合いを元にして、ダンボールでまず模型を作るようスタッフに指示する。それが左上の模型で、会場で見てもらいたいが、その模型には沢山の付箋が貼ってあり、細かな検討事項が書き込まれて、直接模型を切ったり貼ったりしながら詰めていく。
その作業を繰り返した後、下にあるのが1/30初回プレゼン模型となる。この模型を施主と見ながら検討を進める。
この住宅は凍結深度が設定されている軽井沢に建つ。そのため通常、基礎は深く重くなってしまうが、その凍結深度を活用して、軽やかで透明感のある基礎をつくることを目指した。
布基礎から伸びる高基礎とするため、土と家の関係が絶たれてしまわないように基礎に大きな孔を開け、家の中にいながら土を感じられるようにした。いつもは土の下にあって顕在化しにくい基礎が、この家では居心地や住み方、居場所のサイズを生み出すこととなる。
高基礎の中間に引いてある線が地盤面を現している。
 
各居場所を詳細に検討するために1/10模型を用いる。仕上げ材の範囲や什器のディテールを場の使い方と合わせてスタディする。
実施設計に用いる1/20模型。素材のスタディとしても活用し、実物のサンプルを並べながらツヤを検討する。
〈丘端(おかばな)の家〉計画中
家族構成の変化を許容し、適度な距離を保ちながら沢山の過ごし方を見つけられる家。3面接道という敷地の特徴を住み方の自由度に結びつけ、玄関を4面全てに設けた。これにより動線と部屋の区別がなくなり、いたるところが居場所になる、場が階段にまとわりつくような状況となった。
階段を “倒れた壁” とみなし、在来木造の耐震壁と見立てて家全体の構造コアとする。これにより構造から自由になった立面を、居場所ごとの快適性を支える家具の集合体のように設計した。
〈a Study of a Neighborhood in Tokyo, Japan〉スタディプロジェクト
分筆され取り残された小さなサイズの土地が数多く存在する東京。無用化寸前の土地を、都市居住の場所に転換するプロトタイプの発明を目指した。
狭小敷地における塔状の集合住宅。どの場所にいても周辺環境との距離が近く、階によって、時間によって一つの建物でありながら快適性が異なる。狭小ゆえに構成要素がひとり何役も担わなければならない多様に絡み合った集合体となる必要がある。
目的に応じて異なるスケールの模型スタディを徹底的に行った。
具体性を巻き込むことで、むしろ快適性を生み出していく法則を考案することが、これからの都市居住のプロトタイプのあり方の一つになるのではないか。
〈SKIP ROOF〉計画中
高低差のある地形の端部に位置する住宅。さらに隣地には古い植生が手付かずのまま残る。擁壁を兼ねるRCの地下壁を地上部まで立ち上げ、床は木造でどこにでも付けられる組み立てにした。
隣地の植生はこの地に住むという決意として受け入れ、5枚に分けた屋根をスキップ状に落とし込むことで、家の中に “断面的な庭” を展開させ、常に庭と隣地の植生が連続する風景となるようにした。
〈道の駅〉 計画案/右上
山々に囲まれた景観や広大な畑地と調和した、雄大でシンボリックなデザインを求められた。道の駅では積極的に軒下を活用する傾向があるので、広々とした半屋外と、明るい屋内を地産の杉を用いて膜構造に挑戦した。

〈蘇州のオーベルジュ〉計画中/右下
〈蘇州のヴィラ〉計画中
周囲の古い町並みを引き継ぎながら新しい建築を生み出すために、街を構成する材料、屋根面のたっぷりした広さ、大陸の地盤の頑強さを最大限評価した。
大スパンを可能とする薄いSRCで、美しいカテナリー曲線を描く屋根を目指す。
ここまで模型を作り込むことについて「図面を見ても我々は十分理解できますが、設計の専門家ではないお施主さんはよく分からない場合が多いので、それはフェアではないと思います。同じようにイメージを共有できるこれらの模型によって、お施主さんと正確な意思疎通ができ、お施主さんが納得してから進めることができます。自分たちにとっても大きな模型を覗き込むことで新しい発見ができるのです。」と中川さん。
COURTYARD: 〈冬の庭〉"風・光をコントロールする縄屋根と、スケール・材料を統一した模型群がつくる居場所"
内と外を等価に扱う設計を常に心がけている中川さん。冷たい風の吹くこの時期の展覧会ではあるが、縄屋根を用いて風を和らげることで、快適な居場所をつくり、かつ観賞用の模型を守る。中央部は陽の光を遮らないよう透明なチューブを用い、日ごと、時間ごとに変わる光の変化を感じられる。
上から見るとつづら折りに巡るようになっていることが分かる。中庭の模型は大きさの比較ができるよう1/50で統一して新規に制作した。空いている台には今後〈ヨコハマアパートメント〉や〈村、その地図の描き方〉などが追加されるという。
 
春一番の時期には風速20mが想定されるため、縄屋根がそれに耐えうるよう構造設計の佐藤淳に強度を検討してもらった。
中庭での展示を計画した1/10模型も展示されている。
このダンボールの模型から上記の中庭の展示は、アドリブで作られていると思ったら大間違いだ。模型を元に建築設計と同等の施工図が作成されていることも付け加えておく。
中庭に複雑に吹き込んでくる風や日光を環境設計の荻原廣高(神戸芸術工科大学)に解析してもらい、それを模型上にアナログで可視化された写真が面白い。
こういったことからも分かる通り、通常の建築プロジェクトと同様に、今回はギャラリー・間の中庭という敷地のコンテクストをリサーチし、いつもと同様に大型の模型でブラッシュアップを繰り返し、ここに「中川エリカ展」という建築をつくった行為ともいえるだろう。
4階、GALLERY 2: 〈都市スタディのオルタナティブ〉"南米チリの6都市で行った、野外什器を手がかりに居場所を見い出す人々のリサーチと、その後の設計への展開"
2020年の3月に、スタッフ全員で11泊チリで過ごした。
壁に貼られた写真はチリのサンティアゴから始まり、11日間に撮影されたもの。
撮影の対象はこのような生活の中に溶け込んでいる屋外什器たち。知恵と工夫、そしてチリの風土や人々の気質がつくり出すユニーク什器とその小さな風景を、個性の異なる中川事務所のスタッフ皆の目線で400点余り切り取った。
その中からをピックアップされた26事例を模型で三次元化し展示されている。この什器が生まれるに至った経緯、この小さな造形がなぜ魅力的なのかなどを皆で推測し合うそうだ。
一つのものでありながら多くの合理性が集まるこれら “群造形” は中川さんが手掛ける建築にも大きく通ずるものがある。
こういったリサーチの多くは写真に撮った後、分類され、ストックされ、何となく設計の参考として活用さるのが常だが、、
今回のように手を動かし立体化することでより具体性を持ち、身体的にインプットされる資料となる。
模型は1/10で再現されている。
チリの建築家、スミルハン・ラディックの自邸のバーベキューキッチン。スミルハンは2016年7月にこのギャラリー・間で展覧会を行っており( >>取材記事)、当時語った「私はあらゆるモノからピースを集め、今までに無い新しいものを作ろうと常に発想している。」というコメントと、この空間にあるチリの400点の写真がずばり結びついた。
バーベキューが日常に溶け込んでいるチリ。当たり前の設備が当たり前のように敷地に溶け込んでいる。
「一緒に動くスタッフも楽しんでやってもらえなければ意味がない。」という中川さん。楽しく作りながら楽しい展覧会になるようスタッフと常にディスカッションを重ねて進められた。
紹介しきれない模型は是非会場で眺めてみて欲しい。
これらチリでのリサーチを経て、某クリニックの設計が進行している。大きなクリニックで、それぞれ目的場所によって快適のもつ意味が変わってくるという。異なる快適性の集まり、つまり大きくは一つの建築でありながら群としての魅力がある建築を目指す。
チリで収録された、中川さんとスミルハン・ラディックの対談の様子がビデオで流れている。
中庭での風をシミュレートした動画も。
中川エリカさん。「コロナ禍での開催なので "是非いらしてください” と気軽に言えないのですが、建築を通じて少しでも勇気を与えたり、元気が出るきっかけになれば、という思いで準備を進めてきました。事前予約制の開催となっておりますが、会場に入る直前にその場で予約手続きをして頂ければ入場可能、とのことです。混雑時はご予約いただいた方が優先となりますが、お近くにいらした際に気軽に立ち寄っていただくこともできます。」
展覧会に合わせてTOTO出版より刊行した「中川エリカ 建築スタディ集 2007-2020」(¥3,600)
作品集と呼ぶにはまだ実作が少ないとのことから、中川さんが現時点での思いつく限りの建築の探求を集めた「スタディ集」とした。
サイズはB4版と大きく、ページをめくると見開きで迫力ある模型やスケッチ、竣工写真が広がる。ほか中川さんとスミルハン、西沢大良さんとの対談も収録されている。
【中川エリカ展 JOY in Architecture】
会期:2021年1月21日~3月21日
開館時間:11:00~18:00(緊急事態宣言下では17:00まで)
休館日:月曜・祝日 ただし3月20日(土・祝)は開館
入場料:無料、事前予約制 >> https://gallerma.resv.jp/reserve/calendar.php?x=1611236925
会場:TOTOギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)
詳細:https://jp.toto.com/gallerma/ex210121/index.htm

Posted by Neoplus Sixten Inc.


Exhibition Concept

JOY in Architecture

When I think about architecture, I focus not only on what kind of form would be best, but also on what kind of use the form would create and what kind of sensation it would give to our bodies. I also focus on how architecture and surrounding environments can complement each other, because I believe that every city has unique atmospheres and experiences that have irreplaceable value. In order to simultaneously think about things smaller or bigger than architecture, things that cannot be expressed by words, and architecture, we need very large, specific, and detailed models that give us better physical understanding.

We make a number of models at various scales on a daily basis. While continuing to spend much of our time and energy making models every day, we can find boundless joy in architecture.Sometimes it is a joy of creating new architecture from models, and at other times it is a joy of discovering surprising new aspects of human lives and activities.

This exhibition conveys our architectural thinking by introducing all the studies and research on architecture we have done to this day. As part of our ambitious approach to creating an exhibition as if creating architecture itself, we traveled to Chile on the other side of the earth todo research. Our studies on how to connect the discoveries and experiences gained through the research with our design are also presented here.
There is no greater pleasure for me than to share with you many undiscovered joys through architecture.

Erika Nakagawa

Outros artigos nesta categoria