山元町役場庁舎

CAt, Neoplus Sixten Inc.
16. juli 2019
Photo by Neoplus Sixten Inc.

敷地面積11,221m2、建築面積2,711m2、延床面積4,226m2。S造、地上2階建て。
敷地周辺には中央公民館や歴史民俗資料館など地域の公共施設があり、かつ多方向からアクセスできるため正面を感じさせない 丸みを帯びた形をしている。

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山元町は宮城県の太平洋側南端の町。海辺(東)から広がる低地、そして山林(西)と大きく異なる環境に分かれており、そのちょうど中間地点に役場はある。

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津波は最大で高さ13m、海岸から3.5km内陸まで達し、町域の4割に当たる24km2が浸水。2200棟以上の家屋が全壊、637名の犠牲者を出した。

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海岸から1.2km程離れた場所にあり津波で破壊されたかつての町の中心地、JR常磐線山下駅。左のRC造のトイレは無事であったため今でも使用可能。
この山下駅の上下区間は海岸に近いことから、10数kmに渡って1km程内陸に高架化移設されたため、長大な空き地が遙か先まで続いている。
これらは防災集団移転促進事業の一環で進められており、ほかに災害公営住宅整備事業、区画整理事業など多くの国の助成を受けながら町の復興が進められている。

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海辺から僅か400m程しか離れていなかった「山元町立山下第二小学校」は内陸の、町の新住宅整備区画に移転。プロポーザルによって選ばれた佐藤総合計画とSUEP.による設計で2016年に完成している。

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同じ区画で隣接する「山元町こどもセンター」も佐藤総合計画とSUEP.による。

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山下駅、小学校・子どもセンター・保育所・公園、住宅整備区画を内陸側に集約。駅前から高台にある役場まで新しく道路を整備し人と賑わいを結び、且ついつ襲ってくるとも知れない津波から避難を容易にする構想だ。

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インフラ、住宅、学校、面整備などの事業が一通り済み、ほぼ最後に整備されるのが役場だ。山元町役場は台地にあるため津波の被害はなかったが、地震による躯体への被害から解体され、長らくプレハブの仮庁舎で業務を行ってきた。

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はす向かいに完成した今回の新庁舎。建物には2層とも軒下空間がぐるりと回っているのが特徴だ。
左側はバスが軒下まで横付けできるバス停。

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軒天井は杉の羽目板張り。軒下を通っていくと東の芝生広場に通じる。軒下や広場での活動が通りへと広がり、町の賑わいの中心となっていくだろう。

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メインエントランス(エントランスは3ヶ所ある)。冬場は西側の山から冷たい風が吹き下ろすことから、エントランスの形状は流体シミュレーションを掛けながら検討し、東側から鋭角に回り込むようなフォルムの風除室を持つものとした。
「計画中に開催された地域住民とのワークショップでは、風や雪のことなど、住民ならではの貴重な意見を多く得られた。」と大村さん。手前・奥の自動ドアが同時に開いているタイミングを減らしたり、足元の雪が落ちる空間にするために大きな風除室となっているのだ。

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エントランスを抜けると二層吹き抜け空間であるロビーへ。北向きのハイサイドライトと周囲の軒下から柔らかな光がたっぷりと注ぎ込む。
正面が大会議室、左に執務スペースや窓口、奥にはもう一つのロビーや町民スペースと続く。

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大会議室。会議の他、イベントなどにも利用でき、正面の両開き戸から軒下空間に開放できる。
カーテンデザインは安東陽子が担当した。

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1階執務室は大きくAとBに分かれており、各窓口カウンターのパーティションも遠くからでも見やすいデザインと配置になっている。サインなどのグラフィックデザインは、山野英之(高い山)が担当した。

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鉄骨×ブレースと設備用のシャフトが納まるスモール・コアは様々な素材で仕上げられている。仕上げは1・2階を垂直に連続させ、一つのアングルから同じ素材が重なって見えないようにすることで、水平方向に奥行きを感じさせる効果を狙っている。

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パンチングメタルのスモール・コアには熱交換用のダクトが納まる。冬場は太陽熱で温められた空気が床下へ導かれ、下から暖気を巡らせる。夏場はハイサイドから重力換気によって熱気を排出する。
4ヶ所の大きな吹き抜けから注ぐ自然光によって、照明の電気代削減にも貢献する。

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1階は執務スペース以外の約半分は、町民のための共用部と言っても過言ではない程ゆったりしている。

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ワークショップ等の意見交換により、キッチンカウンターのあるカフェスペースのような、フレキシブルなスペースも設けられた。山元町が抱える、復興、人口減少、少子高齢化など様々な問題に対して、行政と住民の垣根を出来るだけ取り払い、開かれた街づくりを進めていくための交流拠点となる場を目指しているようだ。

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家具は藤森泰司が担当した。役場のベンチにありがちな一方向を向いて並ぶものは避け、開放的で広場のようなロビーに合わせるように、正面のない柔らかなデザインのベンチとした。

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キッズスペース一体のベンチも。

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藤森泰司さん。「役場の家具でメインとなるのは窓口カウンターですので、まずはそのデザインからはじめ、他の家具へ展開していきました。家具には色々な素材を使い、人と建築をグラデーションで繋げられるような存在としました。」

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階段には製作したスチール製(溶融亜鉛メッキ)のグレーチング状手摺。

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吹き抜けの手摺にも使われており、気流や光の透過、人の気配を妨げずに、深い角度では目隠しとなるように配慮されている。

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2階は1/4が執務スペースや窓口とロビーで、その他は議場を中心として町長室、応接室、会議室など複数の室をテラスに面して配置。

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2階の軒下は一周テラスになっており、職員や議員の休憩スペースであったり、一部町民にも開放している。
所々プランターとツル植物が巻き付くワイヤーが設置されており、徐々に緑に覆われていくだろう。

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天井に使われている板状のルーバーはSwoodのストランドボードで、最近のシーラカンス作品に出番が多いとか。
ルーバーの隙間からハイサイドライトが覗いているが、ルーバーにより光源が曖昧で自然な明るさになっている。

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議場は議員からの要望で、以前と同じ赤を基調とした重厚な雰囲気に。右手議長席の背後はプリーツのように織られたファブリックで、周囲の赤い壁はグラデーションのファブリックが使われており、いずれも安東陽子が担当した。

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左から小野田泰明さん、赤松佳珠子さん、安東陽子さん。
東北大学の教授である小野田さんは、山元町のアドバイザーとして町の将来計画に長く携わっており、前出の山元町立山下第二小学校・子どもセンターや、本件のプロポーザルなども立案した。
安東陽子さんは「議場の壁のファブリックは濃い赤のボルドーからグレーを帯びたベージュのグラデーションに染め、天井のルーバーから腰壁までが美しく連続するようにしながら上昇感が得られるような印象にしました。」と話す。
当日スタッフや関係者が身につけていたネクタイやリボンは、今回使われたファブリックの余りを利用して安東さんからプレゼントされたものだ。

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左から担当として現場に常駐していた和泉有祐さん、赤松佳珠子さん、本年よりCAtのパートナーとなった大村真也さん。
「海と山をつなぎ、人と人をつなぐ要となるタウンホールです。光溢れる屋内広場を目指し、役場と言うより気軽に立ち寄ってもらえる場所、何かがはじめられる場所として、住民、職員、議員が一緒になって活用していっていただけるように設計しました。」と赤松さん。

【山元町役場庁舎】
設計・監理:CAt
構造設計:オーク構造設計
施工:加賀田組
空調・衛生設備:三建設備
電気設備:ユアテック

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