御徒町のオフィスビル
千代田区
制度を超克する建築の幾何学
敷地は御徒町駅近く、春日通りや昭和通りといった大通りから裏手に位置する。平坦な土地なのでグリッド状に街路が敷かれ、中小の雑居ビル、マンション、戸建て住宅などが雑然と建ち並ぶ典型的な現代の下町の風情である。建築基準法や都市計画の側面からみてみると、台東区では一部を除き、多くが商業地域・防火地域の指定で、建蔽率の制限は事実上なく、指定容積率が高い。一方で道路幅員から基準容積率が決まり、道路斜線で高さが抑えられる。商業地域は他と比較して規制が緩いこともあり、さまざまな用途、規模の建築が渾然一体となっており、掴み所のない周辺環境といえる。
本計画は、以前は倉庫と駐車場であった敷地を合筆して、賃貸のオフィスビルとしたものである。北側からの道路斜線が厳しいなか、天空率を利用し東西の隣地境界から5mセットバックすることによって40mを超える高さのヴォリュームを建てられることが判り、容積率消化が可能となった。基準法上の道路の最低幅員が4mであることを考えると、隣地からの5mの離隔は東西側に道路を敷設したに等しいスケールである。外観上の見え方としては三方向に接道しているかのようで、ヴォリュームの高さも相まってランドマーク的で、雑然とした周辺から独立したような建ち方をしている。
隣地境界からの5mの離隔はいわゆる「延焼ライン」を外しているので、この建物はその制約から自由になっている。そこでRCのフレームを表に現し、2層に貫く斜め柱と梁の架構によって建物全体を構成している。各階の梁成は600mmとしているが、斜め柱が交差しない階ではスパンが短くなるので、梁幅を薄く抑えることができ、その外側にサッシや外壁を通すことで、外観上は2層毎に梁が表れる。柱も2層に貫くようにみえるから、細身のプロポーションと堅実なRCの素材感の対比、また大きな異形のサッシを通した透明感が同居した外観の表現を獲得している。
ところで周辺の建物の用途や規模が多様であって雑然としていると前述したものの、敷地規模から殆どの建物には「延焼ライン」がかかっている故に、開口部は防火設備となり、個々の外観の幾何学は矩形によって占められている。それはまさに制度がつくりだす風景であり、ある意味で画一的でもある。その制度を超克したことで発見された幾何学からこの建築は構築され、都市風景の可能性を拡げるものであると考えている。
- 場所
- 千代田区
- 年
- 2024