鷲巣の走馬棟

MDS
12. 1月 2023
All Photos Neoplus Sixten Inc.
敷地は江戸川のすぐ側に江戸初期に建立された曹洞宗正明寺の境内。昭和期に江戸川の堤防が拡幅され、土地が斜めに削られたため、伽藍は時代と共に土手に沿って南東方向に雁行しながら増築や改築を進め、1990年代に現在の配置になった。
正明寺本堂。明治時代に一度焼失し再建された。
2023年のNHK大河ドラマ「どうする家康」で今川家臣の関口氏純(渡部篤郎)が登場するが、その娘 瀬名姫/築山御前(有村架純)は徳川家康(松本潤)の正妻となる。ドラマの関口家屋敷セットに鎮座する観音像は、当住職が美術監修しているそうだ。
桶狭間の合戦で今川義元は織田信長に敗北。その後関口家はこの地に落ち延び、子孫が1644〜48年頃先祖の菩提を弔うために開いたのがこの正明寺だ。関口家は豪農として栄え、現当主は今でも正明寺の総代長を務めている。
既存状態。本堂を起点に、土手沿いに伽藍が雁行している様子がよく分かる。それぞれの建物は老朽化が進み、お寺としてのありかたや家族構成も変化し、中長期的な改変を計画している。今回1期工事として、先代より受け継いだ若い住職家族の庫裏である右端の「1982庫裏別棟」と「1995庫裏別棟増築」をリノベーションした。
今後2期、3期工事として、「1991庫裏増築棟」を減築、「1950庫裏」客殿に転用していくなどを計画している。
(Image: MDS)
今回リノベーションした庫裏と、右手の離れ。
本殿まで連続する瓦屋根は残しながら、前庭や、裏手の土手に向かって明るく開き、長閑な周辺環境を積極的に取り入れられるようにした。
庭に面した新しい玄関から、土間のままDKとなる。
後ろに下がると書斎。左に行くと水回りへ。
キッチンからダイニングを見る。既存では左右に見える板張り部分は廊下で、現DKはそれぞれ2室の6畳間に分かれていた。壁や天井、建具を取り払い架構現しの大きな気積のワンルーム空間とし、土間・小上がりの関係でかつての廊下の面影を残しながら、新たな居場所として姿を変えた。
土手側(左)にも開口を設け、緑の土手と青い空を望める。
右奥がリビング、左奥が寝室となる。
トム・ディクソン (Tom Dixon) のペンダントライトや、無垢板と樹脂のハイブリッドテーブル、壁面のコンポジションなど、インテリアは住職の好みが強く反映されている。また家電の多くはアレクサでスマート化されるなど、「お坊さんの住まい」のイメージとは一線を画す。
寝室。土手の反射光が入り北側でも明るい。
ダイニングからリビングを見る。既存では8畳間があり、雁行しながら連続していた廊下の雰囲気を残し、さらに外部に縁側を設けた。
DK同様和室の壁を取り払い、床を下げ大きな気積のリビングへ。廊下であった部分も単なる動線から居場所へと変換された。
庭木を整理し光がさんさんと降り注ぎ、西側正面には鐘楼が見える。
照明はモーイ (moooi) を選んだ。
縁側で寛ぐ夫妻。これから家族も増えていく。
手前に見えるステップは、チークの端材で作られたブロック状のベンチで、ネットでオーダーできるそうだ。
最後に離れ。住職が中学生のときに建てられた増築部で、既存では庫裏と繋がっていた。
今回解体も考えたが、庫裏とは切り離してフリースペースとして残した。
離れは、外壁や床を剥がしテント膜で覆われた全く趣の異なる佇まいで、ほぼ半屋外といえる。
現状倉庫やトレーニングジム、読書スペースとして活用しているという。
開口はブレースに合う山型のジッパーで開閉する。夜、行灯状になった際、影がすっきり出るように配慮した。
夕暮れの様子。地域の寺が地域を優しく照らしながら、寺の思い出を映し出すような「走馬棟 (灯)」という訳だ。
(Photo: MDS)
住職・吉州正行さん(左)と、森清敏さん。

「公私が混在する動線を整理すること、四季折々の 長閑な土手の風景も取り込む全方向に開放的なプランにすること、玄関から連続する土間空間を中心とした立体的な魅力を加えることなど、既存建物の佇まいをそのままに生まれ変わらせました。増築を繰り返した20世紀、減築により新しく生まれ 変わっていく21世紀、その分岐点の象徴である “ハナレ” は趣を変え、夜になると テント越しに光が漏れ、行燈のように闇夜に浮かび上がります。」と森さん。
【鷲巣の走馬棟】
設計・監理:森清敏+川村奈津子/MDS
施工:山崎工務店
用途:専用住宅
敷地面積:492㎡
建築面積:127.52㎡
延床面積:127.52㎡

正明寺:saijuzan.jp

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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