「安藤忠雄展ー挑戦ー」レポート/国立新美術館

Neoplus Sixten Inc.
1. 10月 2017
Photo by Neoplus Sixten Inc.

安藤忠雄は、独学で建築を学び1969年に「都市ゲリラ」として建築設計活動をスタートして以来、常に既成概念を打ち破るような斬新な建築作品を発表し続けてきた。本展は、安藤がいかに生きていかに創り、今またどこに向かおうとしているのかーその半世紀におよぶ活動と未来への展望に迫る約270点の資料や模型から89のプロジェクトを紹介する過去最大規模の個展である。

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エントランスでは〈住吉の長屋〉のファサードが出迎える。

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展示は6つのセクション「原点/住まい」「光」「余白の空間」「場所を読む」「あるものを生かしてないものをつくる」「育てる」で構成されている。

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展示空間も安藤自らデザインした。

《プロローグ》

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〈独学時代、世界放浪の記録〉
設計活動をスタートする以前に行った世界放浪は、安藤の建築観に深い影響を与えた。トラベルマップや写真、スケッチブック等を通じて何を見て何を感じたか、その断片を読み取ることが出来る。

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折り畳み式スケッチブック

《安藤忠雄の仕事場》

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〈大淀のアトリエ〉
逐次増改築が行われ、即興的な改造の積み重ねは来訪者の意表をつく不連続な空間をつくり出した。

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アトリエの一部を再現。安藤の日常やパーソナルな部分を垣間見る。
 

《セクション1 原点/住まい ORIGINS / HOUSES》

安藤にとって人間の「住まう」という最も根源的な営みを受け止める住宅こそが、建築の原点。その作品の展開の中で、打ち放しコンクリート、単純な幾何学的造形、自然との共生といったキーワードに象徴される、安藤建築の原型は完成した。ここでは、初期の代表作から近年の圧倒的スケールの海外作品まで、100を超える住宅作品を紹介。

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〈マンハッタンのペントハウス III(進行中)〉
マンハッタンで構想した3つ目のペントハウスの計画。1912年に建てられた12階建ての集合住宅の最上階を、現代美術の画廊経営者の依頼で改装する。螺旋階段でつながれた屋上にはテラスが設けられ、植物学者パトリック・ブランと協同で制作する緑の壁がアートとしての自然を演出する。

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音声ガイドマークがある場所のひとつ(計15箇所で安藤による解説を聴くことができる)

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〈六甲の集合住宅〉
 

《セクション2 光/LIGHT》

極限までそぎ落とされたようなシンプルな造形。その無地の「カンヴァス」に光や風といった自然の息吹が映し出されることにより、安藤忠雄の目指す空間が生まれる。ここではその意図がもっとも端的に現れているの一連の教会作品を紹介する。

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野外展示場では〈光の教会(1989)を原寸で再現。

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エントランスへは階段で実際の高さに合わせてある。

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プレキャストのコンクリート板を用いながらも忠実に再現。

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実物は右側に別棟が建っているため、礼拝堂の全貌は見ることができないが、今回はそれができる貴重な機会でもある。

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礼拝堂。実物と異なる点は、十字架部分や右手のスリット部などにガラスが無いことだ。当初から「ほんとうは無いほうがいい。いつか取りたい。」と言い続け諦めなかった安藤の執念ともいえる思いが此処に。

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十字架は西を向いているので、タイミングが良いと夕日が差し込む様子が見られるという。

《セクション3 余白の空間/VOID SPACES》

自らを「都市ゲリラ」と称した安藤が、都市において一貫して試みてきたのは、意図的に「余白」の空間をつくりだし、人の集まる場を生み出すこと。〈ローズガーデン〉〈STEP〉といった初期の仕事から〈表参道ヒルズ〉〈東急東横線 渋谷駅〉といった2000年以降完成の都市施設、近年の〈モンテレイ大学〉〈上海保利大劇院〉といった海外都市でのビッグプロジェクトまで。規模もプログラムも時代状況も異なるが全て"余白の空間の創造"という一点においてつながっている。

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〈中之島プロジェクトIIー地層空間 計画案〉の幅10mにも及ぶドローイング。
〈アブダビ海洋博物館 計画案〉のアクリル模型など。

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〈中之島児童文学館プロジェクト〉
大阪 中之島公園の市立東洋陶磁美術館付近に自ら設計から建築まで手掛ける児童図書館を同市に寄贈するプロジェクト。費用は民間からの寄付で賄い、2019年度の完成を目指す。RC造、地上3階建て延べ約1,000m2、3層にわたる大きな吹き抜けを囲う壁に本棚を設置し、本に囲まれた「本の森」をつくる計画。

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〈上海保利大劇院〉

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〈21_21 DESIGN SIGHT〉
展示台などに直接描かれた安藤による手描きのドローイングも本展の見所のひとつだ。

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〈表参道ヒルズ〉

《セクション4 場所を読む》
大自然に包まれた立地での安藤建築が登場するようになったのは、1980年代末から。一貫するテーマは、周辺環境と一体化してその場所の個性を際立たせるような建築。

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〈直島一連のプロジェクト〉

30年間余りをかけて、ひとつの島の中に7件の建築をつくった。空間インスタレーションを中心にパネルや映像など。

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模型は中央工学校 建築倶楽部が手掛けたそうだ。

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〈真駒内滝野霊園 頭大仏〉
北海道の緑豊かな霊園敷地内の一角に、15年前に築造された石の大仏があった。これをより"ありがたく”見せるべく提案したのが大仏の頭部より下をラベンダーの丘で覆い隠すというアイディア。

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〈フォートワース現代美術館〉

《セクション5 あるものを生かしてないものをつくる》
安藤にとって、歴史の刻まれた建物の再生は、常に挑戦心をかき立てられるテーマ。単に旧いものを残すことでもなく、それを新たなものとして塗り替えることでもない、新旧が絶妙なバランスで共存する状態をつくりだすこと。あるもの(建物に刻まれた記憶)を生かして、ないもの(未来へとつながる新たな可能性)をつくるという挑戦。

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イタリア・ヴェニス〈プンタ・デラ・ドガーナ〉

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パリ〈ブルス・ドゥ・コメルス〉

いま新たな挑戦として取り組んでいるプロジェクト。敷地はルーヴル美術館とポンピドゥ・センターの間に位置するパリ中心部。18世紀末に建造された穀物取引所をピノー財団所蔵の現代アートを展示する美術館へと改修する。歴史的建造物の中に、コンクリートの壁に囲まれた空間を新設するという大胆な挑戦。2019年オープン予定。

《セクション6 育てる》
建築という枠組みを超えた社会活動への旺盛な取り組みについて。ここでは完成後の建物の周辺環境整備から、地元大阪でのまちづくり活動、瀬戸内海沿岸、東京湾岸部での環境再生運動まで、建築づくり=環境づくりと考える安藤の思想を、ドキュメンタリー映像を用いて紹介する。 

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植樹活動で大きな力となったのは市民一人一人の参加。「皆が日常の生活風景の問題を我がこととして捉え、その思いを少しでも何か行動に移すならば、それは何よりも創造的で可能性に満ちた挑戦となるでしょう」と安藤氏。

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最後に紹介したいのは、展示物の中で異彩を放っている、手作りのユニークなパネルたち。安藤が普段からクライアントに贈っているものであり、コミュニケーションツールと言えるだろうか。

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安藤忠雄氏。「国立新美術館10周年ということで館長より『建築の展覧会をやってほしい』と頼まれたのがきっかけです。挑戦してきたというよりも、一つ一つ仕事を積み上げて自分なりに全力で生きてきました。これからも人々の記憶の中でそこにあってよかったと思われる建築を作りたい」

【安藤忠雄展ー挑戦ー】
会期:2017年9月27日(水)~12月18日
会場:国立新美術館 企画展示室1E+野外展示場
詳細:www.nact.jp/exhibition_special/2017/ANDO_Tadao

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