建築・環境・インテリアのドローイングと模型展

SD Review 2022

22. 9月 2022
All photos by Neoplus Sixten Inc.
審査員は千葉学、小西泰孝、原田真宏、金野千恵の4名。本年は入選12作品が展示されている。各賞はSD誌次号に掲載される。
〈杭とトンガリ 都市の小さな土中環境再生〉能作文徳建築設計事務所+mnm/常山未央

渋谷区西原の商店街に立地する間口1間半の小さな隠れ家的な木造貸店舗。
基礎にコンクリートを使わず、リサイクル可能な鋼管杭で木造躯体を支えることにより、生産時と廃棄時のエネルギーとCO2排出量を低減し、コンクリートやアスファルトで覆われた地面を土壌に戻し、雨水や空気が土中に浸透して呼吸できる地面に変える。建物を建てることで環境を悪化させるのではなく、建つ場所の環境を治癒する建築の実践。
現在施工中で年内完成を目指す。
地中深くに打ち込まれる8本の鋼管杭。
〈廻間町の農架〉川本達也建築設計事務所

市街化調整区域において建物を建てること自体を制限するより、むしろ用途を超えて地域の農家を巻き込みながら建つ方が無秩序な市街化を抑制することができると考えている。これは農村地域に建つ農家のための平屋の家。単に一戸建ての住宅を建てるというよりは、農用地に囲まれるこの敷地に建築することで同時にこの辺一帯の農家のための架構となることを目指した。
指定建蔽率(60%以下)の他に40%以上の建蔽率を確保することが求められたため、地面に接する基礎面積を抑えながら四周全方向に跳ね出す大屋根をつくることで建築面積を確保。
直線材のみを使用して形成した双曲放物面の屋根。
〈アッセンブルハウス〉イシバシナガラアーキテクツ/石橋慶久、長柄芳紀、石橋知美

大阪市阿倍野区。クライアントは築約60年の木造住宅と、築約40年の鉄骨造のオフィス兼住宅を隣接して所有。木造棟の土地を売り、鉄骨造棟を改修。
解体される木造棟から出る廃材を、鉄骨造棟改修のための資材として再利用する。
古い材料が新しく組み合わされ、建具、棚、階段、回廊、室内テラス、造作家具などとして、鉄骨造の大きな気積の空間の中に温かみのある居場所をつくり出していく。古い木造建築群を材料のストックとして読み替えることで、材料の新たな循環を創出し、近距離での材料循環により都市の中での住まいや風景を更新する試みである。
〈五反畑の休憩所〉岸秀和建築設計事務所

畑、住宅の裏庭、水田、休耕畑と四方異なる環境をもつ非接道・再建築不可の空き家を、隣地の4人の所有者で4分の1ずつ使う場所にする計画。
手詰まりの空き家を売却したり放置するのではなく、隣人の小さな要望を小さな負担で叶える新しい使われ方を考えることで建築が生き残り、人間関係や取組みが形となってそこにしかない風景をつくっていく。
4人の隣地所有者に対し、建物を対角に4分割し、空間をそれぞれ四方の環境に向かって開くことで、計画地の中に四方から隣地が流れ込み、それぞれの敷地を拡張したようになる。
分けられたスペースは、住宅の物干し場や、離れの書斎、農作業の休憩場所、農機具の保管、農作物の直売所などそれぞれの目的ために使われる。
各スペースからは各所有地を見渡すことができ、2階は四方に開けた物見台となる。
〈城下の家 剛な天井〉M2A+豊橋技術科学大学水谷研究室/水谷晃啓+諸江龍聖+小島敬也+野口佑大

敷地は市街化調整区域に位置し、農業が盛んな地域にあって緩やかな起伏があり敷地内に牛舎をもつ。家業とは別の仕事に就き、しばらく実家を離れ暮らしていた子世帯が施主となり、両親と共に暮らすために実家を改修する。施主家族が希望するプランへの変更、老朽箇所の有無より解体・改修部分を選定した。
解体に伴って現れる空隙や模様替え後の形状は、牛や猫、植物といった敷地内の動植物が共有する風や光、水といった自然環境を手がかりにデザインしていった。
既存部材を最大限残しつつ現行基準の耐震性能を得るために、水廻りを中心に基礎と壁を補強して耐震コアを配置し、下屋と母家を貫く水平構面を挿入する。
既存の真壁造りの柱と壁をLVLで挟み込むように合せ梁を架け、構造用合板を留めつけて水平構面を構成し、母屋の屋根など補強部分以外の大半が既存のままで成立する耐震補強方法を考えた。
〈脈とコモンズ 循環の再生を通してつくる古民家と流域の未来〉坂東幸輔建築設計事務所+フォルク/坂東幸輔+藤野真史+山本玄介+江畑隼也+三島由樹+三木つばさ

徳島県吉野川流域の農家古民家の建築と庭を、東京からUターンする施主の住まいおよび地域環境のための「コモンズ」としてリノベーションする計画。
かつて藍生産によって栄えたこの流域は、時代の移り変わりと共に養蚕や漬物、酪農へとその生業を変化させてきた。
その変遷過程において、この地域の生活と風景を形づくっていた葦葺屋根・土壁・庭・生垣などの要素は近代化とともに鋼板やコンクリート、ブロック塀等に覆われ置き換えられていった。
こうした近代化による環境の更新により、地域の水と空気の循環や人のつながりが遮断され、この地域の住環境やコミュニティが失われていってしまった。
これらの問題意識のもと、かつて機能していた環境やコミュニティの「循環」を再び創出し、これからの地方都市における新しく豊かな住環境モデルの実現を目指している。
回復していく水脈や土中の環境、脈々と受け継がれてきた伝統知や美しい屋根が連なる共同体の風景の中で実現されていく新しく豊かな暮らし方は、建築や環境を家族や地域社会における共有資源(コモンズ)として位置づける重要な一歩となるであろう。
〈森の端のオフィス〉ツバメアーキテクツ+chidori studio+飛騨の森でクマは踊る+円酒構造設計/千葉元生+山道拓人+西川日満里+岡佑亮+岩岡孝太郎+円酒昂飛騨市のオフィス。

飛騨市の93.5%が森林で、うち68%が広葉樹天然林である。一方、飛騨でつくられる家具の多くは、外来材が使われている。
飛騨の広葉樹は細く、曲がった木が多い上に、樹種が多様で個々の量が把握されていない。こうしたことが障壁となって地元の資源が活用されていないでいる。
施主は、この状況を変えるべく、飛騨の広葉樹を活用した家具、空間づくりに取り組んできた。この活動をさらに促進させるため、森と街の端にある製材所の中に、木と人をつなげるための新たなオフィスを構えることにした。
森に入って木を選ぶことからはじめ、製材のプロセスから関わり、躯体から、家具、建具、仕上げ、断熱材まで、加工方法から考えて広葉樹をさまざまに活用する。躯体に利用する木は、汎用性を考えて厚さ30mm、長さ2~3mの、一般的な家具用材と同じ寸法で製材。
この部材を交互に重ね合わせるようにして接合したトラス構造とし、接合のしやすさと積雪への配慮から軒の低い矩勾配の建物とした。
さまざまな樹種が混ざり、また、耳を残した板材には一つとして同じものがない。そこにある木でつくることから考えることで、森の賑やかな環境を体現した特徴的な空間が生まれている。
〈新横浜食料品センター「発酵」する建築〉ウミネコアーキ+yasuhirokaneda STRUCTURE+アオイランドスケープデザイン/若林拓哉+伊藤祐介+石毛龍+金田泰裕+吉田葵

55年前に築いた「新横浜食料品センター」の「動的保存」プロジェクト。1964年、新横浜駅に東海道新幹線が開通して間もなくこの地に新たに移り住む転入者が生活に困らないようにと、肉屋や八百屋、牛乳屋といった個人商店が入る地域の食の拠点が「新横浜食料品センター」。時代の変化に応じて店舗は入れ替わりながら、建物の老朽化は進行しているため改修の必要がある。
綺麗さっぱり刷新するのではなく、少しずつ店舗の営業を続けながら、地域と溶け合うように更新していきたい。
そこで、減築・新築・店舗移転・改修と段階的に遷移するプロセスを導入する。この更新のプロセスは、まさしく食とは切っても切り離せない「発酵」の概念に通じている。
さらに「発酵」を促進させるべく、新築・改修棟各々に「分解」の設計アプローチを取り込む。バラバラに自立した個が並存しながら、その空隙において無為に連鎖し合い、生成変化してゆくことを受容する土壌を築く。建築自体は形を変えながら、それでも「新横浜食料品センター」として動的に保存されていく、文字通り「発酵」する建築を提案する。
建築自体は形を変えながら、それでも「新横浜食料品センター」として動的に保存されていく、文字通り〈発酵〉する建築を提案する。
〈乙事の木遣り台〉樋口貴彦+大和田卓+齋藤遼

戦前まで寺社仏閣や民家の構法として広く用いられてきた貫構法は、現代の建築生産の体制にそぐわず、技術の担い手も減少し失われつつある。しかし手間を惜しまなければ地域の職人が扱いやすく、また身近な森の循環利用を生み出すことが可能な構法である。
そこでこのプロジェクトでは、7年に一度、八ヶ岳山麓の巨木を伐採し、山里の神社の境内に立て起こして祀る御柱祭が継承されてきた諏訪地方において、貫構法の家屋が現在も集落景観の基調となっている乙事集落の御柱祭に着目し、地域住民と職人、設計者や大学が関わり、御柱の曳き子を鼓舞する「木遣り唄」を唄うための舞台、「木遣り台」を発案した。
行事としての御柱祭は継承される一方、希薄となってしまった地域の大工技術と集落景観と地域の木材利用の結び付きを、「木遣り台」の制作と継続的な活用を通して呼び起こし、地域材の建築部材への循環利用の可能性を問いかけることを意図した。
〈Grove 筋書のない建築への試行〉御手洗龍建築設計事務所/御手洗龍+御手洗僚子+金子摩耶+藤田拓

かつて町割りを崩しながら無機質な高層化が進む都市の中に、間口9.1m、奥行き38.4mの細長い土地が残されている。そこに近隣や自然環境との動的な関係を築き続ける新しい積層建築のあり方を試みた。
長さも径も異なる角柱と丸柱が同時に立ち上がり、そこへ巨大な梁が掛かる不思議なラーメン構造。このムラのある雑木林(Grove)のような構造フレームを頼りにしながら、周辺建物との距離や密度感、動線の引き込み方や光の入り方、風の抜け方、雨の受け方から緑への流し方、そして機能寸法に至るまで、その部分部分の状況に応じて空間を紡ぎ出し、周辺とのつながりが生まれる開かれた場をつくる。
光や風が全体にまわるように床のプレートが柱梁に掛かり、そこへ各機能のボリュームが載る、もしくは吊られる構成となる。ボリュームが構造からの自由度をもつことで、周囲との関係に応じて最適な位置に内外の境界が決められ、同時に多くの半屋外空間がつくり出される。
さらに巨大な柱や梁の周りに場を見つけるようにやわらかく空間を囲い込むことで、そこに沢山の居場所と多様なストーリーが編み込まれていく。
〈ひだまりこども園〉山下貴成建築設計事務所/山下貴成+カン・ヨンア

森の中にたつこども園の計画。施主は子どもたちが自然に触れながら伸び伸びと過ごせる保育環境を望み、木々が生い茂り、なだらかな傾斜がある手つかずの大きな森を敷地に選んだ。
森をできるだけ活かすことを考え、敷地にある5mほどの高低差に対して地形に沿うように部屋をパラパラと配置し、園舎を自然環境に馴染ませることから設計を始めた。最終的には部屋の全てが外周の森に面してぐるりと連なる空間構成に行き着いた。園舎の中心は多目的ホールとして、園児たちが集まれる賑やかな場所になる。
屋根は四角い部屋に外接する弧を描いて軒下をつくりながら、屋外環境を園舎の内部にまで引き込んで森を浸透させている。
地形に呼応して屋根は起伏をもち、丘と連続して森とつながっている。ところどころに開いた穴からは移ろいゆく光が降り注ぎ、園児たちの毎日の生活を鮮やかに彩る。
〈80%コモンズの家 建具がつくる共有性〉Camp Design/藤田雄介+伊藤茉莉子

この家に住むのは4人家族と2人の共同生活者。建築史家、翻訳家、建築家、画家、メディア論を学ぶ大学生、美大生、それぞれ個性をもつ6人が共同生活する場。しかし施主夫婦の専有部はじつに20%未満で残りが共有部となっている。専有部の割合は少ないが、世界との接点は格段に広がるだろう。
起伏のある地形を介して地域につながった2階を、パブリックプラットフォームと捉える。ここは大人6人と無数のアクターによる多彩な活動を支える場となる。
ミチとの間の4m の落差の間にある既存ニワを継承し、ミチとの境界として地域の人々に親しんでもらう。ミチの先には会所が続き、ダイレクトに流れ込むパブリックプラットフォームとなる。1階は1.5層分の天井高となる。階段書庫は中央に位置し東面に抜けるリビングへと続き、上下階の連続性をつくりだしている。
【SD Review 2022】
会期:2022年9月16日~9月25日、会期中無休
時間:11:00-19:00(最終日は16:00まで)
会場:ヒルサイドテラスF棟(東京都渋谷区猿楽町18-8)
詳細:www.kajima-publishing.co.jp/sd-review

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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