みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ(後編)

IGARASHI DESIGN STUDIO
5. 8月 2022
All photos Neoplus Sixten Inc.
7. ポストモダンと倉俣史朗
1960年代後半から、建築をはじめ文学や哲学など様々な分野において、19世紀以降に構築された近代的な文化や価値観に対して批判的な態度が大きなうねりを見せる。これに呼応するようにデザイン界においても「スタジオ・アルキミア」や「メンフィス」が登場し、1980年代は一大旋風を巻き起こす。本パートではこのメンフィスにも参加し、日本のポストモダンを牽引した倉俣史朗による椅子も7脚展示。

左から倉俣史朗の3脚、◼️アクリル背の椅子/1988 ◼️01 Chair/1979 ◼️静岡ファニコンの椅子/1988
左、◼️クイーン・アン・チェア/ロバート・ヴェンチューリ/1984

右手前から4脚、◼️サイドチェア「Olloコレクションのためのテーブル セット」/スタジオ・アルキミア、アレッサンドロ・グエッリエーロ/1988 ◼️ハイスティッキングハイバックチェア/フランク・ゲーリー/1990頃 ◼️テアトロ オープン/アルド・ロッシ/1981 ◼️シンテシス45/エットレ・ソットサス、ペリー・A.キング、アルベール・ルクレール、ブルーノ・スカリオーラ、梅田正徳、ジェーン・ヤング/1972

奥、◼️スプーン/アントニオ・チッテリオ、トアン・グエン/2002(6.イタリアンモダン に分類)
作品性の強い倉俣史朗と梅田正徳の貴重なコレクション。
◼️月苑(キキョウ)/梅田正徳/1988
後ろの脚はスケートボードのウィール(車輪)。
◼️浄土(ハス)/梅田正徳/1988
お坊さんが読経や講話をする際に使う椅子としてイメージされた。
◼️花宴(サクラ)/梅田正徳/1988
◼️ハウ・ハイ・ザ・ムーン/倉俣史朗/1986
フレームもなし、脚も全てエキスパンドメタル。制作に携わった職人が何としても倉俣のイメージを実現させようと膨大な量の試作を繰り返した成果だ。また編み目一つ一つのバリをリューターで削り取るという気の遠くなるような作業も行われている。
倉俣史朗に師事していた五十嵐久枝さんに会場を案内していただいた。まだアルバイトで通っていた頃、この椅子のモックを見て「これを本当に作るのかと驚いた。」と話す。
◼️ミス・ブランチ/倉俣史朗/1988
チープなバラの造花をアクリルに閉じ込めることで見事な作品に昇華させた。56脚のみ製品として製作されたのち、特別な要望に応え20脚ほど増作したそうで、オリジナルの56脚とはバラが若干異なる。その20脚のうちの一つがこれだ。
◼️硝子の椅子/倉俣史朗/1976
椅子とは道具であり、日常使いの家具であると考えると、見た目は誰が見ても椅子ではあるが、繊細で扱いにくいこのガラス板の集合体は果たして椅子なのか?と、どう解釈するかは人それぞれだ。
◼️ヨセフ・ホフマンへのオマージュ Vol.2/倉俣史朗/1986
この椅子がコレクションに加わった際、電球も切れ、配線も古くなっていた。ところがかつてこの椅子の制作に携わった彫刻家が武蔵美の教員として偶然在籍していることが分かり、電球や基板、配線を新しくリペアしてもらったそうだ。「壊れていたこの椅子は、直してもらうひとがいる武蔵美に呼ばれてきたみたい。」と五十嵐さん。
8. 日本の椅子(前期展のみ)
古来より床座の習慣があり、住空間において椅子が必要とされなかった日本では、欧米に比べ椅子を利用する歴史も長くなく、また椅子デザインにとって和室との兼ね合いは不可避であった。固有の事情により独自の発展と展開を遂げた日本の椅子デザインを見つめ直す。

間仕切りや小上がりをイメージした空間デザイン。これら什器の施工は学生が行った。展覧会終了後、資材は学生の作品作りに提供される。
左から、◼️肘付き竹座椅子/坂倉準三建築研究所/1948 ◼️バンブーチェア/城所右文次/1937 ◼️ひも椅子/渡辺力/1950 
前列左から、◼️MK-266/飛騨産業/1957 ◼️ダイニングチェア/水之江忠臣/1954 ◼️ムライスツール/田辺麗子/1961

後列左から、◼️型而工房アームチェア/型而工房/1934 ◼️がま椅子/松村勝男/1972 ◼️三角椅子/作者不詳/1930
左から、◼️低座椅子/長大作/1960 ◼️プライチェア/乾三郎/1960 ◼️ダイニングチェア/長大作/1953 ◼️とよさんの椅子/豊口克平/1955
左から、◼️ペスカ/松村勝男/1982 ◼️NT/川上元美/1977 ◼️スポークチェア/豊口克平/1962
左から、◼️ヒロシマ/深澤直人/2008 ◼️ダイニングチェア/柳宗理/1998 ◼️たびアームチェア/長大作/1995 ◼️CCC/川上元美/1985
前列左から、◼️トリイスツール/渡辺力/1956 ◼️スタッキングスツール/剣持勇/1955

後列左から、◼️スタッキングスツール/柳宗理/1954 ◼️バタフライスツール/柳宗理/1954
左、◼️ラウンジチェア/剣持勇/1960 右、◼️菊椅子/山川譲/1954
9. フォールディングとロッキング
「腰掛ける」という基本機能に「折りたたむことができる」という機能が加わったフォールディングチェアは、いわば複合機能を有する製品。椅子として使用する際のフォルムや強度は当然のことながら、折り畳まれた際のフォルム、運び易さ、重量、さらには折り畳み機構も条件に加わる。実際に折り畳み、広げ、座っていただきながら、より厳しい要件を満たし製造されたフォールディングチェアの秀作群を体感できる。

(ロッキングチェアは、2階スカンジナビアセクションのニケ像の周囲に4脚ある)
左から、◼️MM キャンバスフォールディング/松風正幸/1978 ◼️ニーチェア X/新居猛/1970
左から、◼️ハニカム/アルベルト・メダ/2008 ◼️MKチェア/モーゲンス・コック/1960
前列左から、◼️ブロンクス/川上元美/1992 ◼️チューン/川上元美/1981

後列左から、◼️ラミネックスチェア/イエンス・ニールセン/1966 ◼️エジプシャンスツール/オーレ・ワンシャ/1957
前列左から、◼️プリア/ジャンカルロ・ピレッティー/1967 ◼️プルッフ/ジャンカルロ・ピレッティー/1971

後列左から、◼️ワイヤー・プロペラ・スツール/ヨルゲン・ガメルゴー/1971 ◼️メタル・プロペラ・スツール/ポール・ケアホルム/1961 ◼️ウッド・プロペラ・スツール/コーレ・クリント/1933
休憩コーナーで上映されているビデオ。
建築家でインターオフィスのCEOでもある寺田尚樹さんが、本展の監修者として解説する。今後50脚の解説ビデオを作成する予定で、全てYoutubeに上げ、椅子コレクションの専用サイトと共にアーカイブ化、誰でも椅子やデザインに関心があるひとの情報源として存在させていく。
>>解説ビデオ
寺田さんが作成した解説ビデオのレジュメも展示されている。
椅子マニアの寺田さんならではの細かな情報がびっしりと書き込まれている。
スカンジナビアセクションの奥、半屋外スペースでは学生が制作した椅子も展示されている。各専攻で課題が異なるので様々な椅子が並び興味深い。
本展の監修と会場構成を担当した五十嵐久枝さんと、キュレーターとして本展を担当した武蔵野美術大学 美術館・図書館の沢田雄一さん。

前編記事はこちら
【みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ】
会期:[前期]2022年7月11日〜8月14日
   [後期]2022年9月5日〜10月2日
開館時間:12:00〜20:00(土・日・祝は10:00〜17:00)
休館日:水曜日
入館料:無料
会場:武蔵野美術大学 美術館
詳細:https://chairs-for-all.musabi.ac.jp/

Posted by Neoplus Sixten Inc.

このカテゴリ内の他の記事