深川えんみち
JAMZA
16. 7月 2024
All photos by Neolus Sixten Inc.
長谷川駿・内田久美子・猪又直己/JAMZAによる東京都江東区の「深川えんみち」レポート。高齢者デイサービス、学童保育クラブ、子育てひろばの3つからなる複合型福祉施設。福祉施設がまちと繋がり多世代が共に集い、かつ誰もが利用できる建築。Fukagawa Enmichi, Koto-ku Tokyo
敷地はかつて深川不動堂と富岡八幡宮が一体となっていたエリアのほぼ中心、不動堂と八幡宮を結ぶ通りに面している。通りは地域の人の生活動線であり、観光客も多く往来、また正月や縁日には出店が多数並ぶ。
(©JAMZA)
既存建物。元々70年代に八幡宮が幼稚園として建て、90年代に斎場へ用途変更し利用されてきた地域になじみ深い建物だ。
2020年、近くに新しい斎場ができ建物が空いたところ、近隣の「社会福祉法人 聖救主福祉会」と「NPO法人 地域で育つ元気な子」がそれぞれ、デイサービスと学童保育の開設を望み八幡宮から借り受けることができた。
両法人は、ここが駅や寺社に近い賑やかな場所であることから、地域を巻き込む何か新しい試みをしようと考えていたところ、2021年、日本財団が助成金を出す「みらいの福祉施設建築プロジェクト」というコンペを始めたので応募しようとした。そこで以前、地域で育つ元気な子のために学童保育を設計したことがある繋がりでJAMZAに声が掛かった。
(©JAMZA)
そして応募された472事業から採択された6事業のひとつがこの施設ということになる。
既存のファサードは鉄格子とシャッターで完全に“裏”という印象だったものを開放し、“表”に変えた。
通りに面して全面ガラス引戸とし最大限街に開いている。
周辺の小学校が終わると学童保育の児童が続々と通所してくる。また施設の案内ポスターには度々観光客が足を止めていく。
風に揺れる暖簾がウェルカムな雰囲気をさらに演出している。
通所していない児童が覗きに来て、それに気付いた児童が外に出て声を掛けたりする光景も見られる。
夕暮れには中の明かりが通りを照らし、違った雰囲気を創り出す。
引戸を開けると「えんみち」が現れる。訪れた人と「縁」が生まれる「道」だ。
北と南を貫く「えんみち」の左手に「エンミチ文庫」、右手に「まちキッチン」。
ここから入ってきた小学生と高齢者の間に「ただいまー!」「おかえりー」というコミュニケーションが生まれる。
通所の高齢者と寛ぎながら歓談する設計者の長谷川駿さん。
「エンミチ文庫」はここを誰もが訪れやすくするための仕掛けで、焼津ではじまった「みんなの図書館」に倣っている。一箱ごとにオーナーがいる誰でも利用できる私設図書館で全部で70箱ある。
オーナーは年20,000円を支払い箱にお薦めの書籍を置き、借り手は登録料のみ支払いその後無料で借りられ、オーナーと借り手が緩く繋がることができる。
オーナーが店番として在館している場合もあり、直接コミュニケーションを取る機会も生まれる。
長谷川さんもオーナーの一人として箱を所有。メッセージカードには「絵本のように気軽に読めるお気に入りの本をセレクトしました。」と書いてある。
建築家必携とも言えるレム・コールハースの「S,M,L,XL」を置いてしまう太っ腹。しかも置く本をしっかり決めて棚を造作しているのも建築家らしい。
「まちキッチン」は、平日の日中は主に高齢者デイサービス「深川愛の園デイサービス」の高齢者が利用しているが、午後になると高齢者に交じって学童保育の児童が宿題を始めたりする。もちろん「エンミチ文庫」で借りた本を読むひともいるし、オーナーが集まったりするほか、今後はデリ惣菜の販売や「宿題カフェ」などを行う計画もあるそうだ。
「エンミチ文庫」の先は「健康コーナー」で誰でも血圧計測が可能。
建物南側の「わいわいひろば」と奥に「ゆったりひろば」。こちらも平日の日中はデイサービスとして利用される。
「ゆったりひろば」の一角には少しこもれるスペースも。
その隣には構造上生まれたトンネル。
「まちキッチン」の片隅でリラックスしている児童に声を掛けると「みんなといるのも楽しいけど、ここで静かに本を読むのもいいんだよ。」と言っていた。このあと学童保育のスペースを紹介するが、このコメントの意味がよく分かる。
「ゆったりひろば」には小上がりの座敷。
「えんみち」を行き来する児童。
「えんみち」はそのまま南側のテラス「かまどひろば」に抜ける。
縁側のほかピザ釜やかまどを設えたので、イベントや高齢者と児童の交流などにもに使っていくそうだ。
既存で使われていた門扉のタイルなどを装飾に再利用した。
南側のファサードは全く異なる表情。
既存ではかつて幼稚園の園舎だった雰囲気が伝わる。
(©JAMZA)
そして今回1階から屋上までを繋ぐ階段やキャノピーを増築し、花壇も設けた。
キャノピーの構造は建物から切れて独立しており、鉄骨柱の上部から吊り下げて固定されている。
屋上。暑い季節には水遊びに使う予定。傍らには大型のプランターを設置し児童と高齢者が一緒に野菜を育てている。
2階学童保育の玄関。開放的な半屋外空間が気持ちよい。
「ライト学童保育クラブ」。受け入れ児童は135名、近隣の4つの小学校の1年生から4年生が集まる。
施設は1階同様大きく南北に配置され、手前は「こどもひろば」、奥は「うんどうひろば」。
スペースの両側に135人分の収納や書架が配される。天井は梁を利用してヴォールト天井とし、できるだけ天高を上げながらファサードの垂れ壁と呼応するデザインで、漆喰で柔らかな雰囲気に仕上げた。
「こどもひろば」にはオリジナルの机と椅子のほか座卓などが置かれ、児童はパソコンを開いたり、工作をしたり。フリースペースではダンスをしたり、、、
奥の「だんだん小上がり」では本を読んだり、寝そべったりと思い思いに過ごしているが、当然かなり賑やかなので、静かな環境で集中したい児童は1階で過ごしているのだ。
この辺りのスペースは乳幼児と保護者に「子育てひろば ころころ」として、週3日午前中に開放される。
(©JAMZA)
「だんだん小上がり」に上がると天井が近くなり少し風景が変わる。
反対側の奥にはキッチンがあり、見守りしながら児童のおやつや食事の準備ができる。
構造に影響がない箇所に穴を開け、隣の公園が見えるようにした。
壁は地元の塗装業者に指導を受けながら施設のスタッフが塗ったそうだ。
「うんどうひろば」はゴム床になっていて様々な活動に使われる。ちょっとしたボール遊びをすることもあるので、壁や天井は頑丈な木毛セメント板で吸音も兼ねる。開口はガラスが割れないように木製の格子を嵌めた。照明は斜めに配し広がりを感じさせている。
写真は帰りの会をしている様子
1階のデイサービスも終了し、帰りの会も済み大分静かになった館内では、延長保育の児童が勉強を見る選任スタッフと宿題や自習に取り組んでいる。
夜は「エンミチ文庫」のオーナー同士が交流したり、帰宅がてら本を借りに来る利用者などでゆったりとした時間が流れている。
午前、午後、夕方、夜と刻々と利用者が入れ替わりながら、また乳幼児から高齢者まで様々な人が混じり合いながら使われて、まさに地域を巻き込む施設だ。
JAMZA共同代表の長谷川駿さん
「地域に開かれ、多世代が入り混じり、共に生活するこの建築の中には、いろいろな人が同じ社会の中にいるということを身近に感じ、お互いを思いやる、これからの豊かな街を作っていくヒントが詰まっているように思います。ぜひ一度深川えんみちに訪れてみて下さい。」
JAMZAは成瀬・猪熊事務所出身の長谷川駿、Eureka出身の猪又直己、清水建設出身の内田久美子の3人からなる設計事務所。
PDF平面図 >> ダウンロード
【深川えんみち】
Fukagawa Enmichi
設計・監理:JAMZA一級建築士事務所/長谷川駿・内田久美子・猪又直己
設計協力:ウェルケアデザイン/清水良宣
実施設計協力:高橋まり
構造設計 (増築部):ラム・ワイコン+永井拓生
構造設計 (既存部):松原 守
設備設計:T.Y.U綜合設計 浜口祐爾、INプロフェクト石崎進男
ケアプロデュース:RX組青山幸広
ロゴ・サインデザイン:BOAT INC./飯高健人
施工:長井工務店
家具制作:松本家具製作所
アースオーブン制作:光芸土/クドウシュウジ
主要用途:高齢者デイサービス、学童保育クラブ、子育てひろば
規模:地上2階
構造:鉄骨造
敷地面積:499.14 ㎡
建築面積:334.68 ㎡
延床面積:606.35 ㎡
所在地:東京都江東区富岡1-15-9
運営事業者:社会福祉法人 聖救主福祉会、NPO法人地域で育つ元気な子
Posted by Neoplus Sixten Inc.
Fukagawa Enmichi
設計・監理:JAMZA一級建築士事務所/長谷川駿・内田久美子・猪又直己
設計協力:ウェルケアデザイン/清水良宣
実施設計協力:高橋まり
構造設計 (増築部):ラム・ワイコン+永井拓生
構造設計 (既存部):松原 守
設備設計:T.Y.U綜合設計 浜口祐爾、INプロフェクト石崎進男
ケアプロデュース:RX組青山幸広
ロゴ・サインデザイン:BOAT INC./飯高健人
施工:長井工務店
家具制作:松本家具製作所
アースオーブン制作:光芸土/クドウシュウジ
主要用途:高齢者デイサービス、学童保育クラブ、子育てひろば
規模:地上2階
構造:鉄骨造
敷地面積:499.14 ㎡
建築面積:334.68 ㎡
延床面積:606.35 ㎡
所在地:東京都江東区富岡1-15-9
運営事業者:社会福祉法人 聖救主福祉会、NPO法人地域で育つ元気な子
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