大阪府営泉大津なぎさ住宅

大阪府泉大津市
Architetti
空間研究所/篠原聡子
Sede
大阪府泉大津市
Anno
1999

プロポーザルコンペから3年が経ち、「なぎさ住宅」は竣工した。「なぎさ住宅」は泉大津旧港再開発事業区域内に位置し、大阪湾ベイエリアにおけるはじめての府営住宅となった。
大阪湾に面した埋立地で工業地帯に囲まれたこのエリアには、居住地としてあらかじめ配慮しなくてはならない既存の町並みや社会的コンテクストは何もなかった。

はじめて敷地を訪れた日はとても風の強い日で、建設中の高層マンションが何棟かあるだけで、他に海からの風を遮るものもなく、およそ人の生活をイメージするのが困難な環境であった。そしてこの住宅に入居するであろう326世帯の住民は、所得層によって切り取られた人びとであるという以上に何の共通項もない、無関係な人びとの集団なのである。

地縁が存在しないことに加えて、今回のプログラムの中には66タイプの住戸があり、多様な居住者像が想定された一般公営住宅から特定公共住宅、シルバーハウジングにMAIハウス(身障者向住宅)まで含まれており、その全容はひとつの集住体とういより、都市そのものといっても過言ではない。そうした住戸ミックスのプログラム、そして周囲を取り巻く工業地帯の乾いた風景は、ひとつの集住体のコミュニティに収束できないテーマを私たちに投げかけていた。それは都市的スケールの中でこの規模の集合住宅が何をなし得るのかという問いでもあった。殺伐とした風景の中に立って、都市的な塊であるこの集合住宅を地域に接続させること、そしてそのことによって地域を形成する必要があると私たちは考えていた。

戸々の日照とプライバシーを重視した南向き平行配置、住棟で閉じた共有空間を囲い取る中庭型配置、そのどちらでもない形を選択したのは、これらの住棟配置がいずれも地域との積極的な接続の形式とはなり得ないと考えたからである。「なぎさ住宅」では逆S字型の住棟配置によってふたつの広場を形成している。「なぎさ住宅」の軟らかな骨格は、この外部空間を出現させることによって、居住エリアとしてのこの街区の核になった。基本設計が進んでいく中で、ふたつの広場は「海の広場」と「山の広場」と名づけられた。

「海の広場」は近隣街区に対して開かれ、都市公園として機能する。この広場の人工池に面して高齢者用の住戸がある。この南入りの住戸は、池をバッファーとしながらも、開けた公園の賑わいを生活のシーンに取り込むことだろう。もうひとつの「山の広場」は起伏のある外部空間で、より囲われた親密な居住者のための共有空間である。このランドスケープも、2.5層分吹き抜けたピロティを介して街区の動線に擦りついている。海の広場にも山の広場にも領域はあるが、境界はない。それぞれに性格の異なる空間であるが、空間としてあるいは視界として積極的に街路に対してコミットしている。

住棟にランダムに開けられた空中広場は、蛇行しながら続く片廊下の小さな溜りとなって、子供たちのプレイロットとしても機能し、高層化に伴って失われがちな接地性を補う。また屋上庭園からは大阪のベイエリアを一望することができる。海に開けた視界は、居住者の意識の中で隔絶しがちな工業地帯の景色とこの居住エリアとを接続するだろう。

こうした住居の近傍に設けられた共有空間からふたつの広場へと段階的な共有空間が設定され、居住者の生活のシーンは緩やかに地域に接続されていく。全体のファサードを覆うアルミのルーバーは、そうした生活のフィルターになり、圧倒的な住棟の量感を軽減する装置となり、同時にルーバーの疎密のパターンの向こう側に、居住者たちは変化していく街の姿を眺めるだろう。この集合住宅のひとつひとつのあり様を通して、居住者は街と接することになる。住居とはいかに人を地域と接続させるかという装置なのだと、竣工した「なぎさ住宅」を見ながら思うのである。

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