池上のクリニック

Shinichi Tokuda, Neoplus Sixten Inc.
15. février 2019
Photo by Neoplus Sixten Inc.

元々自宅兼の耳鼻科医院。経営者(院長)が亡くなってからしばらく住み手もない状態であったが、その経営者のご息女の旦那さんが、泌尿器科の医師として務めていた総合病院を定年退職し、この機会に町医者として地域に根ざした医療を行おうと、診療所部分を拡張修繕し、開業したのがこのクリニックだ。

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周囲にRCのマンションが並ぶが、本門寺の参道に面する雰囲気の良い建物だ。
「恐らく3回ほど増築され、元の部分は昭和20年代だったのでは。」と徳田さん。

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旗竿敷地で長いアプローチを持つ。シャッター付きの門扉はそのままで、看板を耳鼻咽喉科から泌尿器科へ変えた。

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真新しいモルタルのポーチと自動ドアを抜けると、昭和の面影を残した空間が現れる。

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既存では手前にエントランスと待合室、半分より奥が診察室だったが、今回左手壁の向こう側の住居部分へ診察室を拡張した。
スタディでは天井も張り直そうと考えていたが、解体が始まり中央の柱が現れると、これを残した方が良いと思い、それに合わせ天井も現しにしていくこととなった。

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解体を進めると耐震に問題があることが発覚。左手の壁や中央の壁などを耐力壁となるよう補強し、開口部にも柱やブレースを追加した。2階も居住を考えているわけではないが要所に耐震補強のみ施した。設計は建物を補強することを前提に進めていったという。
椅子は新たに製作したもの。左の長椅子は座面の奥行きが広いが、具合の悪くなった患者が横になれるようにした。

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「町医者になる」という院長の思いを反映する雰囲気が表現されている。
驚いたことに施主である院長は、はじめのプレゼンでOKを出したのち、一度も現場を確認しなかったという。「お願いしたのだから任せる」ということだったそうだが、設計者としては初めての施主確認が引き渡しの時という、かなりスリリングなプロジェクトだっただろう。

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3種類床板が確認できる。増築の度に異なる材が張られたのだ。
上から少し飛び出しているパイプは暖房用に2階へ引き込まれたガス管だが、アクセントになるよう敢えて残した。

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診察室は元食堂。一見全て新しく見えるが、奥の2枚のドアは既存。垂れ壁には鴨居が付いたままだったりする。
待合室と診察室合わせ53m2。

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出窓やサッシュ、棚もそのままに。

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今ではなかなか手に入らない貴重な磨りガラスがそのまま残っている。

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診察室のドアの向こうは元キッチンだったバックヤード。こちらは補強した構造合板などはそのままに。勝手口が懐かしい。

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元和室は事務室に。正面の四角い開口は診察室と通じており、磨りガラスを移設した。
座っているのは院長の奥さま、つまり先代院長のご息女で、この家で長く暮らしていた。

見てきた食堂(現診察室)とキッチン、この和室などが一番古い時代のもので、左の部屋や、ちらりと見える階段から上は増築。

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徳田慎一さん。「まちと建物の雰囲気もさることながら、ここでキャリアを完成させようとしている院長先生の考えに惹かれ、設計を始めました。長い時間を経たものを手掛りに、かつて耳鼻咽喉科時代に流れていた空気を想像しつつ、とにかく観察する日々。設計は、既存の空間を下地にして、元々あったものと新しく作るものとの関係性を作っていくような、コラージュに近い作業だったように思います。」

【池上のクリニック】
設計・監理:徳田慎一建築設計事務所
構造設計:KKSエンジニア
施工:TH-1

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