JR日豊本線 霧島神宮駅 改修

Takuma Kawaguchi | 26. décembre 2024
All photos Taisuke Inatsugu
霧島神宮駅外観と駅前
鹿児島を拠点とし建築を主軸に事業展開する企業IFOOが、JR九州が募集する「九州DREAMSTATIONにぎわいパートナー」に認定され、霧島神宮駅前界隈の活性化を目指すプロジェクト「光来 (こうらい)」をスタート。民間主導で担う街づくりの端緒として駅舎改修をすることとなり、川口さんが設計を依頼された。
「光来」プロジェクトはIFOOが主体となり、食、手仕事、そして建築の力によって、霧島神宮駅前界隈の日常の延長と、新しい体験とが駅を中心とした徒歩圏内で体感できる小さな街づくりを目指すプロジェクトだ。
駅に到着した特急きりしま。
今回ホームの改修はされていない。
ホームを降りた駅舎への連絡地下通路。
鹿児島県内の古建築群の多くで見られた架構に丸太柱と梁で玄関下屋垂木を支える形式がある。その形式を人を迎えるための木架構と捉え、門型を12列並べた。門型はハの字平面に配置し遠近を強調させ、到着する人は駅舎をより近くに感じ、出発する人は実際より長く感じさせ、小さな違和感により体験を印象的なものとしたいと考えた。
既存連絡地下通路
(©川口琢磨建築設計事務所)
改札を抜けコンコースより鳥居の先5kmの霧島神宮への軸線を望む。
霧島界隈が古来より育んだ巨木や巨石という量塊が生む古代性と、街の産業として培われた製材技術という現代性が交錯する場とし、神宮の森の森厳を感じる新たな原風景となることを目指した。
コンコースを見返す。右手に待合・茶屋、左手に物販およびワークショップスペースが続く。
既存のコンコースと右手の待合
1965年に竣工したRC造平屋建ての駅舎。味のある研ぎ出しの改札は改修後もそのまま利用されている。
(©川口琢磨建築設計事務所)
駅舎の中央には「御神柱」と呼ぶ幅1100×厚み330の大太鼓柱を据え、既存RC部の耐震要素を兼ねさせている。
天井木架構は県産スギ材38×270を井桁状に交互に重ね、井桁のそれぞれの方向性に神宮本殿への軸 (南北) と都市化の軸 (東西) を積層させることで、界隈が持つ地歴と時間の積み重ねを表現した。
御神柱やほかの大径木は、鹿児島大学の協力を得て大学の演習林より新たに伐採した。需要低下により適切な伐採時期を過ぎて大径木となった木々の活用研究の一環だ。
伐採した大径木は霧島市内の製材所にて高精度に製材。外皮を剥がしただけの端部をあえて現しで使い、空間に独特の緊張感と大らかさを持たせている。
待合に併設されるのは茶屋「Quili (キリ)」。ベンチやカウンターの下にプレキャストコンクリートの枕木を使った。
正面、改札の内側に外縁とベンチも設け、線路斜面の植栽も整理し庭とした。
圧倒的な木材の量感で、もはやRC造には見えない駅舎。
待合からは東側のワークショップスペースまで見通すことができる。
コンコースより物販・ワークショップスペースへ。
手前の4つ柱は内側のみ皮面を残し表情を変えた。
物販・ワークショップスペース「慈慈 (じじ)
「結界」と呼ぶ建築什器がエリア内の各スペースを緩やかに分けている。右手の結界3用のテーブルは、鹿児島大演習林より伐採したスギの根部分をそのまま利用した。
物販スペースの奥、結界1内のワークショップスペースで見返す。
作家たちと一緒に制作したり、今後カフェとして地域コミュニティスペースとしても機能する予定。
各スペースを緩やかに囲う鴨居のような「結界」は、互いに支え合う4つのT型架構の集合体。
ワークショップスペースに立つ二又に枝割かれした太鼓柱。枝分かれした部位の木目はサバ杢と呼ばれ希少性が高い。
東から西へ進むに連れ、巨木の柱群は丸太状態から4面製材へと表情を変え、製材過程とその技術を見せている。
また、井桁状の天井木架構はワークショップスペース、コンコース、待合へと積層数を2層から4層へ徐々に増やしながら天井高さが低くなり、深い森から外界となる街や斜面庭へ視線を導く構成とした。
架構の見上げ
駅舎の外へ
軒下にもベンチを設えた。鳥居は既存のもの。
夕景
駅前界隈に内部木架構と斜面の庭が透けていく。
既存外観
外観の改修はベンチを設え、待合側の縦格子を外した程度に抑えている。
平面図・断面パース
駅から南東に200mほど離れた場所にも「光来」プロジェクトのひとつ「石蔵ゾーン」があるので合わせて紹介する。

IFOO/谷征紀による「石蔵ギャラリー群 改修」
霧島神宮駅近辺の地域である霧島大窪には江戸時代から、年貢などの物資の移送ルートとして倉庫が整備されていた。鉄道の沿線であるこの地には昭和中期に食料等の物流拠点として石蔵が建てられたが役目を終え長い間活用されてこなかった。この歴史ある石蔵を駅舎改修と並行してIFOOがカフェラウンジ「光芒」へ改修、奥には会員制サウナ、手前には2025年オープン予定のレストランの運営までを担う。
既存の石蔵
改修にあたり、線路や列車との距離の近さを重視して場を再構築。荷捌きスペースだった半屋外の下屋にカウンターを据え、列車が走る臨場感を楽しめる場とした。
カフェラウンジ「光芒」
半割り丸太が穀物倉庫時代の名残を残す。奥は併設のギャラリー。
鹿児島大学大学院理工学研究科鷹野研究室による石蔵に隣接する「サウナ棟」 は、会員制サウナ「閃閃」としてIFOOが運営する。
サウナ棟と水風呂棟が中庭を囲い、石蔵の壁と空を眺めながら、鉄道の走行音を楽しむ。
川口琢磨さんのコメント

霧島神宮駅前 (えきぜん) が巨木と共に培った森厳と人の技術という界隈が持っていた力。それらを際立たせ建築に落とし込むことで、この場所にしかできない空間が立ち現れると考え設計しました。量塊と製材の力を、界隈の温かさと共にぜひ現地で感じてもらえらばと思います。 

【霧島神宮駅前プロジェクト 光来 JR日豊本線霧島神宮駅 改修】
設計監理:川口琢磨・新畦友也/川口琢磨建築設計事務所、飯田康二朗 (元所員)
構造設計:坂田涼太郎構造設計事務所
木材調達・利用:鹿児島大学大学院理工学研究科鷹野研究室
建主:IFOO
コミュニティーデザイン・運営:IFOO
施工:IFOO+ベガハウス
製材:岩元製材

用途:駅舎、物販飲食、地域交流スペース
構造:既存RC造、一部木造
面積:敷地面積 32,653.00 m²、建築面積 308.50m² (駅舎) 、延床面積 233.59m² (駅舎)  
所在地:鹿児島県霧島市大窪465 JR日豊本線 霧島神宮駅 

【霧島神宮駅前プロジェクト 光来 石蔵ギャラリー群 改修】
設計監理 (石蔵):谷征紀/IFOO
設計監理 (サウナ):鷹野敦、清藤彩音、朱芷萱、永渕涼佑、古川光星、山口豊、松崎太一、満園大翔/鹿児島大学大学院理工学研究科鷹野研究室
構造監修 (石蔵):鎌田建築構造設計事務所
造園:荻野景観設計
コミュニティーデザイン・運営:IFOO
施工 (石蔵):IFOO
施工 (サウナ):鹿児島大学大学院理工学研究科鷹野研究室+IFOO
設計・施工指導 (サウナ):Metropolia University of Applied Science

用途:ギャラリー、カフェラウンジ、サウナ
構造:既存組石造、一部木造(石蔵)
   木質組積造、木造(サウナ)
建築面積:172.89 ㎡ (石蔵)、24.29 ㎡ (サウナ)
延床面積:118.53 ㎡ (石蔵)、24.29 ㎡ (サウナ)
所在地:鹿児島県霧島市大窪418-3

Posted by Neoplus Sixten Inc.

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