「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」展/国立西洋美術館

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 展

Le Corbusier, Neoplus Sixten Inc.
18. February 2019
Photo by Neoplus Sixten Inc.

展覧会主旨:
「若きシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエの本名)が故郷のスイスを離れ、芸術の中心地パリで「ピュリスム(純粋主義)」の運動を推進した時代に焦点をあて、絵画、建築、都市計画、出版、インテリア・デザインなど多方面にわたった約10年間の活動を振り返る。

第一次大戦の終結直後の1918年末、ジャンヌレと画家アメデ・オザンファンは、機械文明の進歩に対応した「構築と総合」の芸術を唱えるピュリスムの運動を始めた。そして、絵画制作に取り組みながら新しい建築の創造をめざしたジャンヌレは、1920年代パリの美術界の先端を行く芸術家たちとの交流から大きな糧を得て、近代建築の旗手「ル・コルビュジエ」へと生まれ変わる。

本展はル・コルビュジエと彼の友人たちの美術作品約100点に、建築模型、出版物、映像など多数の資料を加えて構成。ル・コルビュジエが世に出た時代の精神を、彼自身が作り出した世界遺産建築の中で体感できる、またとない機会となる。」

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コルビュジエによる日本唯一の建築。パリで彼に師事した前川國男、坂倉準三、吉阪隆正の3人の日本人建築家の協力により完成した国立西洋美術館本館は、所蔵品が増えるにつれて建物が中心から外へ螺旋状に拡張する「無限成長美術館」のコンセプトに基づいている。

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本展は展示作品のみならず、コルビュジエの作品そのものの中で展覧会を堪能できる。
まずは1階19世紀ホール。普段展示されているロダンの作品を撤去しての展示だ。

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展示作品と合わせ、空間の詳細な撮影も試みた。(※一般公開ではこの空間のみ撮影可)
三角形のトップライトから光が注ぎ、奥のスロープより目線を変えながら2階に上がっていく仕掛け。

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〈メゾン・ドミノ〉1914年、第一次大戦後の復興計画のために考案した集合住宅の工法システム。前提として鉄筋コンクリートの利用と、部品の大量生産という発想があった。
本作で示されたフレーム構造の切り開く空間の可能性を徹底的に追求し、"近代建築の5原則" に収斂させていった。柱をファサード(立面壁)より内側に入れたことで、ファサードが構造壁から解放され、組石造では避けることができなかった縦長窓ではなく、水平に連続する窓など自由な立面が可能になる。

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〈画家オザンファンのアトリエ・住宅〉1922-24年、パリ
コルビュジエがパリ市内に完成させた初めての建築。「自由な立面。人間的尺度によって標準化した窓の要素。それらの組合せと統一。」
抽象的幾何学と機械の美学の融合というピュリスム絵画の理念を、3次元のオブジェとして現実空間に投影させた作品。

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〈イムーブル=ヴィラ〉1922年、都市デザインを構成する住居の一類型として考案。

展示室壁側に展示されるアクソメ図では、400m×200mの街区に、ロの字型住棟が300m×120mの公園を取り囲み、公園には緑地や散策路、テニスコートなどの運動施設が配される。各住戸はメゾネットで、2層分の高さを持つ空中庭園を持つ。模型は同じく別に展示されているパースのもう少し小さな案のようだ。

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〈ヴォワザン計画〉1925年、場所を選ばない都市デザインの一般解として構想。

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〈スタイン=ド・モンヅィ邸〉1926-28年、ヴォークレッソン/フランス
ピュリスムの運動は既に終わっていたが、この住宅の設計にはピュリスムの理念が最も反映されている。

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「柱が独立していることが、家の中全体に一定の尺度とリズムと落ち着いて抑揚を与える。外壁は光を運び込むものと考えた。従って外壁はもはや床や屋根を支えてはいない。単にガラスの膜か家を包み込む組物である。」とコルビュジエの解説。

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スロープを上って2階へ。

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〈エスプリ・ヌーヴォー〉
ピュリスム(純粋主義)の運動は1918年末、第一次大戦が終わったばかりのパリで、シャルル=エドゥアール・ジャンヌレと画家アメデ・オザンファン(1886―1966)が共同で開いた絵画展によって始まった。
彼らは1920年に雑誌『エスプリ・ヌーヴォー(新精神)』を創刊し、機械文明の進歩に対応した「構築と総合」の理念を、芸術と生活のあらゆる分野に浸透させることを訴えた。ジャンヌレはこの雑誌に「ル・コルビュジエ」のペンネームで建築論の連載を行い、1922年には従弟のピエール・ジャンヌレと共同の事務所を開いて、建築家ル・コルビュジエとして本格的に活動を始める。

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2階は四角い回廊を周りながら、4つの章に分け展示されている。
第1章:ピュリスムの誕生
第2章:キュビスムとの対峙
第3章:ピュリスムの頂点と終幕
第4章:ピュリスム以降のル・コルビュジエ

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〈ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸〉1923-25年、パリ(世界遺産)
右は1926年撮影の竣工直後の写真。

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ラウル・ラ・ロシュとコルビュジエの兄アルベール・ジャンヌレの家族のための住宅。敷地は路地に面した行き止まりで、アプローチ方向のジャンヌレ邸と、敷地奥のラ・ロシュ邸がL字型に計画されている。連続する水平窓によってプロポーションが抑制され、アプローチの奥行き方向に緊張感を与えている。

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模型は内部も観察できるが台が高い。
ラ・ロシュ邸はピロティに支えられ、絵画ギャラリーの曲面外壁が訪れる人々の視線を惹きつける。

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キュビスムを代表するピカソやブラックの作品も。

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〈積み重ねた皿、三角定規、開いた本のある静物〉〈白い椀〉などジャンヌレ(コルビュジエ)の絵画作品

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〈ヴィンセンホフ・ジードルンクの住宅〉1927年、シュトゥットガルト(世界遺産)とル・コルビュジエ

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ドイツ工作連盟の展示会のために建設された住宅のプロトタイプ。展示会はミース・ファン・デル・ローエがマスタープランを行い、ブルーノ・タウトを含む17人の建築家が参加し、33棟の住宅団地をつくった。
工業化・量産化として提案された、前出の〈メゾン・ドミノ〉を発展させ、その建築的ポテンシャルを体系化・言語化した『近代建築の5原則』が初めて公表されたのが本作だ。

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2階から19世紀ホールやバルコニーを見る。

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正面〈エスプリ・ヌーボー館〉パリ国際装飾芸術博覧会のパヴィリオン。

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〈肘掛け椅子〉/バスキュランチェア、〈寝椅子〉/シェーズ・ロング など
1930年代に製作された貴重なビンテージ。

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最後にサヴォア邸のコーナーで展示は締めくくられる。

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〈サヴォア邸〉1928-31年、ポワシー/フランス(世界遺産)
コルビュジエが提唱した『近代建築の5原則』= ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面全てが、最も純粋な形で体現された建築。

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第二次大戦中にはドイツ軍施設として用いられ、戦争終了後は荒廃していたため、高校建設用地として解体の危機に遭遇。しかし、世界的な反対運動により解体を免れ、当時としては画期的な近代建築の歴史的モニュメントとして認定された。

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本作の設計期間は絵画制作におけるピュリスムからの自立と重なる。1928年頃から貝や骨などや、女性のイメージが絵画のモチーフに加わり、『ル・コルビュジエ』と署名するようになる。それに呼応するようにサヴォア邸では巻き貝を想起させる螺旋階段や、女性のシルエットを反映する寝椅子が浴室に見られる。

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サヴォア邸のオリジナルスケッチ。平面、室内パース、外観パース、俯瞰などが一枚に検討されている。

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サヴォア邸の人物のいるパース、断面

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ガラスで囲われてしまった、普段非常階段として閉じられている周り階段を退場の際利用できた。

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