52間の縁側

Yamazaki Kentaro Design Workshop
18. January 2023
All photos by Neoplus Sixten Inc.
接道から少し離れている敷地。小径の先に架構だけのような建物の一部が見える。
敷地は元々竹藪で、その開墾から始めた。
筆者がこのプロジェクトを知ったのは、2016年5月プリズミックギャラリーで開催された山﨑さんの個展「今、建築にできること」においてだ。「すごい敷地のすごいプロジェクト。どうなるか自分にも分からないところがある。」と説明されたのを覚えている。その後、2016年9月のSDレビュー2018年4月の「建築の日本展」などで少しずつ形を変えながら出展され、山﨑さんに会う度に進捗を聞き続けてきて、6年掛けようやく完成した。
長大な建物であるが、奥行きは約4.5m程しかない。
本来施主も設計者も意図したプロポーションではないが、右手の林は大きく落ち込んでいる河岸段丘で、崖条例適用地となるため建築可能範囲が限られ、南北に細長い敷地に沿った形となった。
北側から順に施設を外観から紹介する。
高床になって下には子どもたちの恰好の遊び場となる池で、すでにアメンボやヤゴなどが棲みついている。上はほぼテラス。
池には傾斜に沿った小川から井戸水が流れ込む。
来所者はピロティを抜けて、池や小川を眺めながら小径を上っていく。
池や小川は、稲田ランドスケープ事務所が主導し、地域の人たちなどを集めてワークショップ形式で造られた。
南側へ進むとカフェや工房、一度テラスを挟み、、
次にデイサービスとなる。
施設は木架構の内側に “箱” が挿入されるような恰好であることが分かる。
そして南側が座敷と浴室の箱、さらに南端でまたテラスとなっている。
実はこの建物の幅は、当初計画の52間ではなく42間(約76m)だ。後述の小規模多機能型居宅介護施設を隣に開設することとなり、予算の一部をそちらに融通したため南側を10間短くした。しかしこの迫力を目の前にすると18mも短いことは言われてもよく分からない。ちなみに三十三間堂は幅118m。
圧巻の縁側。軒高は約5.1m。
一度池まで戻って、建物に入ってみる。
ピロティの下は高いところで約2.3m。床下に階段がある。
メインの出入り口ではないが、崖下にある小学校から子どもが気軽に入ってこられる。
北端のテラス。階段周りをあえて見通しのきかない腰壁で覆い、テラスの端で静かに過ごせる環境とした。
こちらはよりオープンなテラス。何か必要になる使い方が発生した場合の余白ともしている。
架構は端から端まで同じ構成で組まれている。
最初の箱はカフェ。近くに大きな団地があるが、高齢者やひとり親家庭が多いそうだ。生活にハンディキャップのある子どもたちの居場所として、親たちのコミュニティの場として、ワークショップも開催したり、もちろん施設使用者やその家族などにも気軽に利用してもらいたいそうだ。
外に見える古民家も利用し小規模多機能型居宅介護施設(小規模多機能)とする。隣地の所有者が本施設に賛同し、建物を貸与してくれた。
窓辺を利用した居場所も多くある。
トイレ。特別な個室感をもたせ、トイレに行くのがちょっとした楽しみになる。
キッチンのある工房。軽食をつくるキッチンや、就労支援で何かを作る工房として利用できるように用意。仕切りのしとみ戸を跳ね上げカウンターとして、右の棚に商品や制作物なども並べられるようにした。
小規模多機能とはデッキの渡り廊下で接続される。
デイサービスへ。カフェなどで誰もが利用できるようにしつつも、介護の場とはワンクッションおいた距離感も大事にされている。左下ににじり口が見える。
にじり口の中は三畳ほどの図書室だ。籠もって本を読むのが好きな子どももいるだろう。
デイサービスのエントランス。
デイサービスは “リビング” と呼ぶ(定員19名)。大開口に面して板の間と座敷が並列する。引戸を開放して内外を連続させた活動(餅つきなど)がすでに行われていて、縁側の威力を発揮。見通しのいい開口から、庭で遊ぶ子どもたちを見守ることも容易だ。
この施設の設計プロセスにおいて山﨑さんが強調したのは以下のようなことだ。
「ここではどのような介護をしようかとか、どのような機能が求められるのかとか、介護施設としての建築はこうであるとか、そんな決めごとは何もない。何かが起き、何かが必要になれば、それらを臨機応変に対応して、深刻にせず楽しくありのままにすればいい、というのがここの介護。従来の管理やシステムのなかで、介護をルーティーンにしてはいけないという考え。そして自分はこれができる、これが手伝えるという仲間がどんどん集まってここを育てていく。結局介護は人が行うものであり、人が関わることで豊かなものになる。建築ができることは限られている。ここは介護施設というより家のような寺のような建物。設計者としてはそんな場を用意した。」
奥にキッチンと、学習机。学校になかなかなじめない子どもには、こういった居場所が大切だ。
キッチンにはいつも大人がいて、目を掛けながらも声を掛けすぎない。子どもにとっては周りに人の気配があるが、直視はされない少しずれた空間で自分のペースで過ごせるのだ。
学習スペースを抜けると再びテラス。
倉庫、そして離れのような座敷。座敷の奥は浴室。
この建築では完全に構造勝ちなので、内装が挿入されている。
ここをできるだけ多くの人が利用できるようにするには、縁側だけでは十分に引きつけることはできないと考え、寺のように柱梁現しで、カジュアルなものを入れ込んだ構造に負けるという方法を取り、室内がきっちり納まった住宅(よそのひとの家)の雰囲気にならないようにした。
あまりコントロールしない場所を様々なところに設け、人と人が自然に関わり合えるような空間作りを意識した。
脱衣所。左奥の引戸から座敷に通じる。
浴室は普段はデイサービス利用者のためであるが、夏場はプール、冬場のイベント時には足湯としても使用できる。
浴室は武者窓で閉じる。
空いた南側敷地には畑をつくることを検討しているそうだ。
里山の雰囲気でもある。
山﨑健太郎さんと、施主で “宅老所いしいさん家” を運営するオールフォアワン代表 石井英寿さん。

石井さんは知る人ぞ知る介護界の変革者。年を取っても、認知症になっても、その人がありのまま生きていけるような居場所を提供する。利用者の家族、一人親世帯、地域の人たちや子どもたちも垣根なしに一緒に(或いは一人で)過ごせるような居場所づくりを目指している。

「さまざまな人たちがこの場所で過ごすさまを見ていると、この建築は橋のようでもあり、お寺のようにも見えてきます。皆が縁側でおにぎりを頬張る姿を眺めていると、この建築は、近代日本がなくしてしまった大切なものを思い出させてくれます。」と山﨑さん。
1/300配置平面図 >> PDFダウンロード
1/50断面図・構造アクソメ  >> PDFダウンロード
【52間の縁側】
設計・監理:山﨑健太郎デザインワークショップ/山﨑健太郎・中村健児・中村久都(元所員)
構造:多田脩二構造設計事務所
施工:ベステック・オフィス
ランドスケープ:稲田ランドスケープデザイン事務所
照明:ぼんぼり光環境計画
設備:Y.M.O.

敷地面積:1,585.85 ㎡
建築面積:424.24 ㎡
延床面積:493.30 ㎡
規模:地下1階、地上1階 
構造:木造
主要用途:老人デイサービス
建主:オールフォアワン

Posted by Neoplus Sixten Inc.

Other articles in this category