写真 © 淺川敏
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新北九州空港連絡橋

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場所
福岡
2006

1993年からデザインを手がけている長さ2.1kmの海上橋。中心部のアーチ、橋脚、桁などの主要構造部から、高欄や照明などの細部までデザインした。2006年2月開通。

2006年の開通まで13年間関わることになったこのプロジェクトは、1993年にニューヨークのオフィスで受け取った一枚のファックスから始まった。九州大学の竹下輝和教授からの「橋のデザイン、やってみない?」という問いに、独立して間もない私は規模も概要も知らぬまま、喜んで「やります!」と応えたのであった。後に、海上橋としては九州一長い2.1kmの長さを持つこと、北九州空港が移転する人工島への架け橋となることを知ったときは驚愕したが、「面白そう」と屈託無く思えたのは自分の未熟と無鉄砲がなせる業であった。建築設計でさえ経験が浅かったのに、橋梁という土木の花形プロジェクトで、学識者からなる委員会や行政担当者、並み居る土木コンサルタントを相手に、海上長大橋という困難な仕事を完遂できたのは、ひとえに竹下先生の導きと、二人三脚を組んだオリエンタルコンサルタンツの児玉隆昌氏のおかげである。土木のマナーを知らぬまま、次から次へと案を出し爆走しつづける私の手綱を取り、また手を携えるのは並々ならぬご苦労があったことと思う。

これは私にとって、初めての、そしておそらく最大の土木プロジェクトであるが、アーチや桁、橋脚などの主要構造物だけでなく、照明柱や手すり・防護柵にいたるまで一貫してデザインに携わることができた。シンボル的存在であるアーチの断面は、根元では直方体だが頂部に向かって六角形に変形していくねじれたかたちで、それを3つの製作会社が分担し、ボルト無しの全溶接でつくるという、極めて困難なものであった。完成したアーチのスレンダーさと優美さ、陰影の変化は、大変洗練された印象をもたらしている。桁や橋脚においても、量感を軽減しシャープな印象を与えるよう、直角を使わず削ぎとっていくような3次元的フォルムを与えた。主要構造物でない照明柱や防護柵、休憩施設などは、土木の領域では軽視されがちだが、ここでは形のデザインに取り組むだけでなく、設置方法や位置まで全体と照らしあわせつつ決めていくことができた。

陸地側の橋の端部は、全体の玄関口である。この橋は歩道がついているが、ここではとくに歩行者の利用を重視し、渡るだけでなく訪れて楽しい場所となるよう計画した。回遊性や緑化、イベント時にはステージとして使える場、繊細なトラスでできたショートカット階段、駐車場の設置などが公園として楽しめる場をつくりだし、ウォーキングや釣りを楽しむ人も多い。

 その後、このプロジェクトで苦労をともにした行政担当者やエンジニアから、河川や道路などの土木構造物のデザインを依頼されるようになり、建築単体から視野を広げ、大きなスケールでデザインに取り組む機会を得た。建築と土木をどちらも手掛ける建築家は、日本においてはかなり少ない。私にその幸運を運んでくれたのが、この橋である。

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