葉山丘邸 場の形プロジェクト

都心から程近く、古くから天皇が御用邸を置く地としても選ばれた、伝統と洗練された印象を兼ね備える海沿いの地、葉山。相模湾越しに富士山と江ノ島を望むこの場所にあって、海と山の豊かさをふんだんに満喫できる丘の上が今回の現場となった。デベロッパー三菱地所、設計施工を竹中工務店の50世帯が入る分譲共同住宅における、エントランスからエントランスホールにかけての空間と、それのモデルルーム展示会場でのエントランスとバルコニーのデザインを長崎が担当した。

この丘の上の邸宅を、独創的で特別な「形」をもって際だたせたいという依頼のもと、丘の歴史や水平ラインを意識した建築のあり方、自然の記憶など、この邸宅を包む数々の文脈を読み解き、単なるオブジェではなく「場の連続性」「時間軸の連続性」を感じる、風景の物語を創出し、住人となる人々の記憶に残るような邸宅のプロローグを創り上げた。

奥行きあるアプローチの横で、正面玄関一帯を覆い立つエントランス壁オブジェは、道路側と敷地側とで見え方が大きく変化する。表(場の形[壁表])は白くすっきりとした表情の壁で横に細長いスリットが入り、このマンションのシンボルツリーである椿の幹の一部が覗く。そして敷地側である壁裏(場の形[壁裏])のデザインは陰の要素を含み、杉板が並べられたような化粧が施された。
オブジェを超えプライベート感高まる入口を入ると、安らかな静けさあるホールが出迎える。そこには、エントランス(場の形[壁裏])の空気を写し取ったオブジェ(場の形[壁裏の記憶])がある。ここでは、(場の形[壁裏])で窪みとしてレイアウトされた箇所が、杉板化粧と対比した無機質な打ち放しコンクリートのレリーフにより出張りとなって表現される。これはテーマの一つとして様々な場所で感じてもらう仕掛けである、凹と凸、陰と陽、表と裏といった二面性を現している。
ホール内にはまた、深草砂利洗出しのオブジェ(時の器)がある。長崎が以前から、緑無くして自然を表す作品として様々に連作している「方位」をモチーフにした円盤と、それが置かれた土台の穴は、(場の形[壁裏])にある椿の鉢との同形をとり、木が植えられた穴の空気を再び呼び起こす。もうひとつ、(場の形[壁表])の空気が現れている作品が、ラウンジにある。このエントランス壁表にあいた枠と同じ大きさの版木画は、そこから見える椿を大胆かつ繊細に顕示したものである。それは、時の経過と共に育んでいく外の景色と対峙するように、今の凛々しい装いをそこに置き続けていくのだろう。

また、モデルルーム展示会場の作品(場の形[記憶の種])は、エントランスオブジェ(場の形[壁表・壁裏])と大きさ素材について同じ印象となる焼杉板壁に、この共同住宅の建設地が以前、歌人高橋正風男爵の別邸だった頃に植えられていた椿と、元来この地に自生していたハイビャクシンとを配置したものである。
展示会場の解体後には、この椿とハイビャクシンは実際のエントランスに移植されるが、一目で解るような主張はない控えめで奥ゆかしい素材であるこれらが、人々をじっくりと眺めさせる力を持ち、空間に不思議な合理性と違和感を与えることとなったのは、そんなストーリーにも因果するのかもしれない。そして、焼杉板はコンクリート壁の型枠に利用したことで化粧として生き続け、ここでもまたモデルルームを訪れた時の記憶に触れることとなる。
実際の邸宅とモデルルーム、切り離されがちなこの二つを同時にデザインすることができたため、記憶の反復と材料のリサイクルがかみ合った合理的なデザインが可能となり、場所や物に重みが生まれたのであろう。

このように葉山丘邸とともに創られた一連の庭とアートの関係は、単に美を追求しただけのものでなく、多様な素材、風景、形に対するデザインを通して、いわば「感情のリイグジスト(再存)」を試みている。つまり、存在の反復や連なる記憶によって、人々が豊かな感覚の層を感受し、そこに愛着を持ってもらえたらという想いから作られている。
40.0㎡
Landscape Architect
N-tree
Year of completion
2007