神ヶ谷の家

浜松市西区神久呂地区。三方原台地の南端、神ケ谷に建つ住宅である。
製茶業を営むご家族の若夫婦世帯が暮らす家として建築された。敷地にはご両親が大切にされてきた松や柿の大木が堂々と枝葉を広げている。暮らしと共に時を経た樹木は独特の安定感をもたらす。樹木が見つめた時間は家族の歴史であり、次世代を担う若夫婦はその思い出を新しい家屋にも引き継いでいきたい~つまりこれらの樹木を残すことを望まれ、それを基に敷地の計画を進めた。同時に未来への展望のひとつに「老舗のお茶処が手掛けるカフェ~茶房」を開く夢を持たれている。これは次世代の家業継承における新たな展開であり、製茶業に生きてこられたご家族の地盤は未来へも続いている。
これらの事由から、歴史に育まれてきた安定感と次世代への夢が如何なく発揮できる住宅づくりを目指した。
ご家族との話し合いを重ね「地に根差す」ことを意識した外観は強く個性豊かでもあり、周辺環境との馴染みはスレートの自然色によってかなえられている。年数を経た松や柿はそれ自体に非常に力があり、逞しい幹と主張する葉色はどちらかといえば無彩色な外壁と相性が良い。
室内は内に開く回遊式の構成とし、居住性を意識しながらも面白味のある居室配置にしている。育ち盛りのお子さんのために開放的かつイマジネーションが膨らむ空間を心がけつつ、カフェとしても機能できるデザイン性を考慮した。中庭を中心に間仕切りを曖昧にすることで屋内外を連動させ圧迫感を軽減。既存の庭への開口部に連子格子を取り入れ、しっとりと落ち着ついた表情を演出。土間とフローリングエリアの両立は段差を椅子として活用できるなど、限られた面積を有効活用できるよう工夫している。
造作は全体的にすっきりとさせ、照明や木漏れ日の陰影による趣を大切にしている。畳空間の床柱は古い母屋から移設し、室内にも新旧の融合点を添えた。
お茶は「永年作物」といわれている。苗の植え付けから摘採できるようになるまでおよそ4年、安定的な収量を得るまでに7~10年かかるらしい。このご家族が営まれている製茶業は120年の歴史を持つ。幾度となく四季を繰り返し、沢山の思い出と共に家族の歴史を育んでこられた。新しい建物での生活も、歴史の1ページとして紡がれていくだろう。
「当店のお茶は、いわばウイスキーでいうシングルモルト。」
ご家族から聞いた印象的な言葉である。この言葉にはお茶づくりへの確かな指針を感じることができ大変感銘を受けた。この住宅もご家族にとってそんな存在であってほしい。またお茶のようにゆっくりと時間をかけて、ご家族のさらなる思い出を増やしていっていただきたいと願っている。
場所
静岡
Year of completion
2016