日本平ホテル

日本平ホテルは、「風景美術館=日本平」とする静岡市の「日本平公園整備事業計画」の中で、日本平の老舗ホテルである「日本平ホテル」が1964年の創業以来初となる全面建て替え、2012年9月にリニューアルオープンしたもの。

ランドスケープには、株式会社MLSの三谷康彦氏が設計を担当。広大な芝生広場を近景に、 その背後に映る富士山と駿河湾、 清水の夜景など時々刻々と変化する風景を 「絵画」 のように設計されました。

今月のビルディング・レビューは、ランドスケープに焦点を置き、ランドスケープデザイナーの視点からお話を伺いました。
庭園から富士山を望む  ( Photo ©: Nippondaira Hotel )
プロジェクトの基本概念をご説明下さい。

ホテルのコンセプトでもある「風景美術館」を踏まえ、いわゆる「日本庭園」でも「西洋式のガーデン」でもない、「日本平」の土地ならではの雄大な風景と環境、そして地形のヒダを生かし、ダイナミックに水面が変容する、アクセサリーとしての「庭」の概念を超えた、建物の内外空間を繋ぐ「ランドスケープ」として機能するものを目指した。
テラスへと続く平池  ( Photo ©: Nippondaira Hotel )
プロジェクトを引き受けることになった経緯についてご説明ください。

建物正面の、緩やかな起伏を持つ広大な芝生の広がりの先の清水港の海の先に、神々しく聳え立つ富士山と、中景の雄大な山並みの風景が気に入った。この風景をそのまま「生け捕り」にして、庭の近景の中に生かしたくなった。「生け捕りの装置」として、ひたすらシンプルで平明な浅い水面の中に長大な花崗岩を1cm程度浮かせて配置し、水面に映り込む富士山を楽しめる水面の高さ関係には大いに腐心した。浅く広い水面を渡る、日本平の清々しい風を、美味しい料亭の料理と共に、目で楽しんでいただけるようにと考えた。
水面が鏡となり日本平の風景を映す  ( Photo ©: Yoshinobu Hayashi )
計画、設計されたランドスケープと実際に完成した作品との違いはありましたか?問題解決するにあたって、困難だった点、工夫された点などがあれば教えて下さい。

浅い池は藻が発生しやすいため、満水と干水を繰り返すことにより常に水が動いているような装置とした。護岸部には敢えて石を並べ立てず、むしろ室内と良く繋がり、優しい表情とするために、地産地消の地元静岡産の揮緑岩の砕石を使用、美しい色合いと形状の州浜状にした。
平池に浮かぶ花崗岩と富士山  ( Photo ©: Norihisa Yamaga )
今回のプロジェクトと設計に対する基本概念とはどのように関係していますか?

富士山を望む、広大な風景に対して、新たにデザインするランドスケープに果たして何が出来るのだろうか?と考えた。富士山の取り込み方、見せ方、建築に対峙する富士山軸のランドスケープによる設定の上に、建築が素直に長大に建てられたことは大きい。
レストランからの眺め  ( Photo ©: Norihisa Yamaga )
ランドスケープアーキテクトの役割とは何ですか?

まさに風景の中に建築をどう据えるのか?建築の向きや、建築の大きな地形のアンジュレーションとの取り合い等の調停。細部の取り合いなど。単に「庭」スケールだけの話ではなく、ランドスケープスケールに於いても、「庭屋一如」の思想、建築とランドスケープの繋がりや広がり感により、快適で上質な内外空間が生まれると考える。
建築に直行する「富士山軸」に据えられた石  ( Photo ©: Norihisa Yamaga )
現代建築の流れの中で、今回のプロジェクトはどのような位置づけとお考えですか? サステイナビリティー、社会、環境、技術などの視点からお答え下さい。

これ見よがしな建築やランドスケープではないと思うが、安価な材料を控えめ上手く使用した、日本平らしい上質で豊かな時間が流れる内外空間が完成している。
配置図  ( Drawing ©: Mitani Landscape Studio, Inc. )
今回のプロジェクトから学ばれたことは何ですか?今後の設計活動に活かされること、課題などに ついてご説明下さい。

空や風や光や影と言った大自然のダイナミックな営為を、ランドスケープのデザインの中に取り込むことを大切に考えること。干満する浅い池とし、風景の自然な変化と共に、食事する時間の間にも自然に風景が変化する池水の設え。また、池水を完全に干すと、広場として池床をイベントにも使用も可能になる様に考えた。単に自然の季節変化だけでなく、多様に変化する空間のダイナミズムも、ランドスケープの大切な特徴の一つであると捉えたい。


聞き手:八木夕菜
日本平ホテル 
2012
静岡

発注者
株式会社 日本平ホテル 

ランドスケープ
三谷康彦(株式会社MLS) 

建築設計
日建設計 

設計代表者
ランドスケープ:三谷康彦(株式会社MLS)/ 建築:村井達也(株式会社日建設計)

施工
木内建設株式会社

全体ランドスケープ工事施工
稲治造園工務所

石工事関連協力
和泉屋石材店

敷地面積
75,769.13㎡

建築面積
6,153.43㎡

延床面積
18,678.62㎡