写真 © 矢野紀行
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Tokyo Diagonal Tower

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場所
東京都
2019

東京タワーから歩いて15分ほどの場所にある、タワー状の住宅。
敷地の面積は58.64㎡とコンパクトで前面道路幅が5m程度しかないため、通常は隣地に立っているビルのように、道路斜線制限によって3階付近から33.7°で急激にセットバックさせなければならない。しかし天空率を用いて細かく検討した結果、ファサード全体を足元から4.3°傾けて17.7mまで斜めに立ち上げ、中央部は14.4mまでまっすぐに立ち上げるという組み合わせであれば、斜線制限をクリアすることがわかった。

当初よりオーナーから、階ごとに異なったテーマを持たせ、その組み合わせを楽しみたいという要望を受けていた。セットバックによって3階から床面積が急激に減ると、4階や5階が狭くなり過ぎて、テーマを持たせるにしても実用的な面積を確保できなくなってしまうが、足元から4.3°傾ける程度であればそれを回避できる。さらに、まっすぐに立ち上がる中央部との組み合わせによって少しづつ各階の面積を増やしながら、特徴的な内観・外観をつくれればと考えた。

オーナーは国内外で非常に交際範囲が広く、人脈も豊富で、かつホスピタリティに溢れる人柄のため、建物には多種多様な来客が想定された。各階のテーマや使い方について、かなりの時間をかけて話し合い、

1階はバーカウンターを備えたシアタールームにもなるリビング
2階はダイニング・キッチン
3階はエステサロンやヨガスタジオとしても使える個室×2、
4階は可変ベッドで2〜6人が泊まれる寝室×2、
5階は半屋外の吹き抜けをもつバーラウンジ、
R階はバーベキューテラス、
とすることになった。

設計開始から竣工まで約3年かかったため、その過程でオーナーは結婚し、子供が生まれ、身辺環境が大きく変化した。結果的にオーナーはここに住まないことになり、認可を取得して宿泊施設として貸し出すことになった。

と書くと、この住宅の当初の目的が達成されなかったかのようだが、実はそうではない。

オーナーの言葉を借りれば、むしろその逆で、「将来のために心底好きな住宅をすでにつくってある」ので、あとは必然的なタイミングで転居さえすればいい、とのこと。宿泊施設であれば、いつでも自分が借りて楽しめるため、転居せずに暮らしている今の住居も含めると、生活の場の選択肢が広がったと言い換えられるのかもしれない。

かくして「Tokyo Diagonal Tower」と名付けられたこの宿泊施設は、建物全体を一組だけが借りられる決まりになっている。従業員は常駐しないので、行楽地のコテージや貸別荘、あるいは民泊のようなプライベートな使い方ができる。オーナーと時間をかけて話し合って作り込んだ空間はオーナー仕様の特殊解ではあるものの、オーナーの広い交際範囲と人脈から客観的なアドバイスを多数取り入れ、楽しみ方については共有しやすいものになっている。宿泊予約サイトは国内外からアクセスでき、東京の中心という立地も手伝って、むしろ特殊解を求める利用者が好んで予約することもあるのではないだろうか。

竣工後しばらくして、オーナーから「今度バーベキューと映画観賞会をするので、家族で遊びに来ませんか。まだ誰も泊まったことがないのでせっかくなら最初の一泊を」とありがたいお誘いをいただいた。通常なら引っ越し後の新居へ伺うと、遅くとも夕食後には帰宅する流れになるが、今回は少々勝手が違う。当日はR階から1階まで行ったり来たりしながら、オーナーの家族や友人の方々と美味しい夕食や大迫力のサラウンド映画を存分に楽しんで、最後は4階のベッドで寝静まった妻と子供を横目に、のんびりとシャワーを浴びた。

翌朝、他には誰もいないので寝坊気味に起きて身支度を済ませ、外出に際してはいつも自宅でそうするように戸締りができているかを確認し、芝公園のカフェテラスで家族と朝食をとりながら、この建物について改めて考えていた。

賃貸用の共同住宅・宿泊施設・一戸建ての住宅・保育園・店舗など、いつも設計するときは用途を意識しているが、根本的には誰がそれを使うにせよ、一定以上の熱量で作られたものは、やはり人の心を動かし、面白いとか心地よいと感じさせるのであって、それは先に列記した用途の違いを超えたものなのだろうということだ。

相手が不特定多数だからと無難な一般解をつくるのではなく、ネットやSNSが定着した今なら、特殊解をつくったとしても、きちんと周知できれば多数の共感者を集められるし、おそらくビジネスとしても成立する。建築主として相当な熱量をもつオーナーと今の時代を背景に、宿泊施設にもなるこの住宅を、共有される特殊解として設計したことになるのではないだろうか。

-中佐昭夫-

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